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2025年11月21日
ピュウ
キャサリン・レイシー,
井上里
読み終わった
人が仮面をつけるのには理由がある。川にダムがある理由があり、瓶に蓋がある理由があるように。(p.187)
ピュウが言葉を発しないのにも理由がある。村人たちの多くはその理由を考えることなく、言葉を発せよと促しつづける。ダムがなければ川は氾濫してしまうし、蓋がなければ瓶の中身は溢れてしまう。水は意図的にあふれ出させなくてはならない。
わたしたちはオルガンの物悲しい泣き声を聞きつづけた。そんな風にして時間は過ぎていった。もしかすると、人には決して言葉にできない痛みや思いがあり、それらは楽器によって純粋な音に作りかえられ、空中へ紡ぎだされ、ほかの人たちに聞いてもらう必要があるのかもしれない。(p.188)
ピュウは自らの過去、おそらくなんらかの痛みを伴っているそれを思い出すことができないが、言葉を発しないでいる理由はまた別のところにあるのだろう。楽器の音はそれを聞くための耳がなければ聞き取れないことがある。たとえばベースの重低音などは典型だ。鳴っているのに気がつけない。しかしその存在を認知し、耳が鍛えられていくことで、実は唸るようなベースラインであったことに気がついたりする。ピュウはその耳を持つ者かどうかを判別する力があるのかもしれない。









