
ねこ
@notoneko25
2025年11月23日
星を掬う
町田そのこ
人から聞いた。
「そんな風に簡単に切り換えられない。ねえ、心を斬りつけられたことある?からだの傷と全然違うの!痛みが、発作みたいに、タイミングも計ってくれずに何度も何度も襲ってくるの。いつ治るのか分かんない。一生治らないかもしれない。ただ、痛むたび絶望して死にそうになるの。そんなことも分かんないくせに、痛みを無駄とか言わないで!」
怒りで、戻が滲む。わたしは好きで、ここでただ外を眺めているわけじゃない。ぼんやり過ごすことを良しとしているわけじゃない。わたしなりの、あがきがある。
誰かを理解できると考えるのは傲慢で、寄り添うことはときに乱暴となる。大事なのは、相手と自分の両方を守ること。相手を傷つける歩み寄りは迷惑でしかないし、自分を傷つけないと近づけない相手からは、離れること。母は恵真さんに、そう話したのだという。
「棘を逆立てたハリネズミを抱いても傷つくだけだし、ハリネズミも刺したくないものを刺して苦しむものだからって。だからママは自分がハリネズミになる前に離れようとしてるんだろうな」
「そして、わたしの不幸も、あのひとのせいなんかじゃない」
わたしの不幸は、母に捨てられたことではない。他でもない、わたしのせいだ。