柿内正午 "近代小説の表現機構" 2025年11月25日

柿内正午
柿内正午
@kakisiesta
2025年11月25日
近代小説の表現機構
“実はこれ(引用者註:白樺派の一人称および言文一致体の達成)は、大正期に「個人主義」が、まがりなりにも日本的な一つの結実の形をもたらしていくプロセスとも並行していた。「大正期教養主義」に象徴されるように、古今東西の古典を渉猟し、孤独な読書と思索、日記による内省を通して人格を開治していく、というイメージが、白樺派、激石の弟子たちを中心に次第に定着していくことになる。 (…) 彼らが信奉した「人格」という概念は、戦後民主主義の影響を受けた今日的な「個性」「自我」の概念とはかなりその性格を異にしている。当時この言葉はある種の生命思想ともいうべき信仰に裏打ちされており、「自己」内部の生命を凝視することが同時に自然、宇宙の普遍的真理に到達する唯一の手段である、という理念に支えられていた。大杉栄が「生の創造」(「近代思想」大3・1)において、〈社会の進化〉の基礎を〈自我の、個人的発意の、自由と創造〉に求めていた事実に象徴されるように、社会主義思想、自由主義思想の別を問わず、「個」に徹することによって普遍に突き抜けていこうとする発想は、まさしく時代に共通して流れる価値観でもあったわけである。” p.162-163
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