
いるかれもん
@reads-dolphin
2025年11月25日
生きがいについて
柳田邦男,
神谷美恵子
読み終わった
また読みたい
学び!
「足場をうしない、ひとり宙にもがいているつもりでも、その自分を大地はしっかりと下からうけとめて支えてくれていたのだ。そして自然は、他人にようにいろいろいわないで、黙ってうけいれ、手をさしのべ、包んでくれる。みじめなまま、支離滅裂なまま、ありのままでそこに身を投げ出していることができる。
血を流している心にとってこれは何という安らぎであろうか。何という解放であろうか。そうして、自然の中でじっと傷の癒えるのを待っているうちには、木立の蔭から、空の星から、山の峯から声がささやいてくることもある。自然の声は、社会の声、他人の声よりも、人間の本当の姿について深い啓示を与えうる。なぜならば社会は人間が小さい知恵で人工的につくったものであるから、人間が自然から与えられているもろもろのよいものを歪め、損なっていることが多い。社会をはなれて自然にかえるとき、そのときにのみ人間は本来の人間性にかえることができるというルソーのあの主張は、根本的に正しいにちがいない。少なくとも深い悩みのなかにあるひとは、どんな書物によるよりも、どんなひとのことばによるよりも、自然のなかにすなおに身を投げ出すことによって、自然の持つ癒しの力ーそれは彼のうちにも外にもはたらいているーによって癒され、新しい力を恢復するのである。」(p.176)
これまでの人生の中で、一番と言っていいほど絶望していた時、ふと見上げた秋の空と、そよ風に癒された瞬間があって、それを今でも時々思い出す。
瀬戸内海に浮かぶ長島のハンセン病患者の療養所、愛生園に勤務していた精神科医神谷美恵子の代表作。本書が初めて出版されたのは、1966年、今から59年前(来年で60周年!)。これは2004年に復刻されたものである。
病や、それに付随した社会的な差別に苦しむ人々を診てきた経験から記された本書は、人間の根源的な生きがいや存在価値を見つめている。その普遍性のためか、読んでいてもまったく古めかしい感じがしない。様々な哲学者、作家、一方、ハンセン病の患者や死刑囚、特攻に向かう青年など様々な人たちの言葉が引用されているが、そのどれもが今の言葉のように感じられる。
一読しただけではなかなか全体像をうまく語ることはできないけれど、時折読み返し、自己を見つめながらわかっていく本だと思う。

