
あめ
@candy33
2025年11月25日

買った
読み終わった
読書メモ
現アメリカ副大統領のJ.D.ヴァンス氏が10年くらい前に書いた本。
昨年、トランプ氏から副大統領候補に指名されたときに話題になったのを今さら手に取ったのは、「福音派」を読んで、やはりこちらも読むべきだろうという思いから。
前半は、J.D.ヴァンス氏の生い立ちを通して、アメリカのラスト(lastではなくlust)ベルトの最貧困層の生活が赤裸々に描かれている。この描写は日本では想像し難いのではと思えるほど凄まじい。ただ、アメリカに住んでいる身からすると、あり得ない話ではないと思える(のが悲しい)。
ただ、私にとって一番興味深かったのは、それら最貧困層のリアルな生活描写ではない。ヴァンス氏が、自らの出身であるそのコミュニティに親しみと敬意と愛情を抱きつつも、その問題点を俯瞰的な眼差しでしっかり指摘していることである。
ラストベルトの最貧困層のコミュニティの人々(ヒルビリーとヴァンス氏は呼んでいる)は、「自分たちのことは自分たちで始末をつける」という思想を持っている。だから銃を持ち、自らと自らの家族のことは全力で守る。他人を信用していないから我が家と親族以外に家のことは話さない。
問題はその思想だけが先走っていることだ。結局解決能力を持たない、または知らない彼らはたくさんの問題を抱え込み、さらに大きくしてしまい、現実は全く「自分たちのことは自分たちで始末」できていない。自らの行動が悪循環を招いていることにヒルビリーが全く気付けていない、ということをヴァンス氏はスパッと何度も指摘している。抜け出した人だからこその指摘だ。
とはいえ、実際にはこのコミュニティから抜け出せる人はほとんどいない。つまり、アメリカは分断していて、一方は他方のことを全く知らないとも言える(日本も同じかもしれない)。だから、このものがたりはとても貴重で、アッパーのエスタブリッシュメントと呼ばれる人たちが、ヒルビリーを理解するため読んでいるのだ。
もう一つ驚いたのは、後半、ヴァンス氏がイエールのロースクールに入学する際に、学費が全額免除となり心底驚いたという部分だ。アメリカの、特に私立の、さらにアイビーリーグなどは、学費が(日本の大学とは比較にならないほど)高額なことで有名だが、同時に、奨学金が充実しており、家庭の収入に応じて学費の免除がある。最貧困層であれば全額免除となるであろうことはよく知られた話であると思う。外国人の私でも知っている。
何十万ドル(日本円にすると何千万円)となるであろう学費を借金してでも払ってイエールに通おうとしていた彼は、全額免除となって入学したイエールの立派さや学習環境の充実っぷりを目の当たりにして、本当に学費を払わなくていいのかと信じられないでいる。そして、もし、自らのコミュニティの高校生が「アメリカの大学では収入に応じて奨学金がある」ということを知っていたとしたら、もう少し違った世界があるのではとヴァンス氏は思うのだ。
外国人の私が知っている情報を持たないアメリカ人がいるということにショックを受けた。
知っているということ、逆に言えば、知らないということの重さを痛感した。
情報は生きる上で武器であり、鎧でもある。でもその情報は、お金を払って得るか、親から子へ、またはコミュニティの中でしか共有されない種類のものだ。分断している世界では、その分断をまたいで情報が共有されることはない。それが貧困を生む要因の一つになっているのではと、ヴァンス氏は大きな問題意識を持っているのだ。
このものがたりは、ヴァンス氏が副大統領になるだいぶ前で終わっている。彼がトランプ支持に至ったストーリーも知りたいが、『福音派』も合わせて読んだいまなら、反トランプから熱烈トランプ支持への鞍替えの背景も理解できるような気がする。

