
あんどん書房
@andn
2025年12月4日
移動と階級
伊藤将人
読み終わった
移動格差の実態と、それをめぐるさまざまな研究の紹介の本。
格差の実態についてはまあ想像通りな感じで、たとえば過去一年以内の居住都府県外への旅行経験は、年収300万円未満と600万円以上では27%の差がある(P66)。あるいは海外旅行経験では、300万円未満の人々では2人に1が一年に一度も経験しないが、600万円以上では5人に1人である……といったふうに。
その最低ラインの半分にも満たずにやっている自分としては当然海外なんて選択肢にも上がらないし、「旅行」的な旅行も2年に一度行ければ良いぐらいの感じではある。でもこれは現在の金銭的な問題というよりも、本書でいう「移動資本」に含まれる潜在的な移動可能性(今までの経験なども踏まえた移動することへのハードルみたいな)が低いからと言えそうだ。海外一人旅なんて絶対ムリムリ!
個人的にはそういう経済状況以外でも、移動をめぐる困難についてのアンケート(P83)で「副鼻腔炎」の辛さを語っている人に大いに共感する。めっちゃ鼻ズビズビの状態で電車とか乗ることにちょっと躊躇いを感じてしまう。花粉の時期ならまだしも、年がら年中なので……。
“政治学者の山本圭は『嫉妬論』のなかで、人類学者のガッサン・ハージの議論から、現代においては、空間的な移動や、社会階層を上昇するといった移動をめぐる「移動性への妬み」が存在すると指摘する(山本:2024)。背景には、人生がうまくいっていると感じられる(「見込みのある人生」)ためには、その人が「どこかに向かっている」と前進している感覚(「想像的な移動性」)が不可欠であるという現代の状況がある(Hage:2015、山本:2024)”
(P86)
孫引きの引用みたいになっちゃうけど(本書はかなり引用が多い)、ここは感覚的にすごい分かるな。やっぱり動いてる人ってすごそうに見えちゃうんだよな。だからこそ「移動が関心を集めるからこそ、逆に地域の伝統やナショナリズムが強まっている部分もある」(P41)ということにもなってくるのだろう。
あと個人的には書店のトークイベントに参加できる人が羨ましい。
一方で、そういう心情とも密接に繋がってくるであろう「成功したいなら移動せよ」的な価値観。これはそもそも「移動したから成功する」というより、能力や「移動資本」(お金、移動しようとしたときに移動できる環境、過去の移動経験の蓄積…などのさまざまな要素)を元から持つ人が成功するという能力主義の価値観なので、批判されている。
フッ軽は正義、を信じられる時点で恵まれてるということだ。
また、そういう価値観で語られがちな「ノマド」に関しても、全く逆のイメージが提示されている。『ノマドランド』に出てくるような現代アメリカのノマドは、定住を手放さなければならなかった「下層ノマド」なのだ。(そしてさらに、そういう生活でさえほとんどが白人にしかできないという状況もあるという)
移動をめぐる論点の一つとして「移民」についても書かれているが、国境をまたいで受け入れられる移民にも格差が存在するという。
“高度人材を移民として積極的に受け入れる一方で、「役立たない」「使えない」移民は、積極的に受け入れずに拒もうとする移民政策を「選別的移民政策」という。”
(P165)
ここでもまた能力主義。これはもちろん移民に限らず移住でもあるんじゃないかな。スキルを持った人だけ地方に来て欲しい、子を産むつもりのある人だけ来て欲しい……。
また、ジェンダーの観点からは「女性のほうが運転中のケガのリスクが高い」という指摘もあり、その理由が安全設計のベースが男性基準であったから…というのはめちゃくちゃ制度の問題だなぁと思った。万人向けの設計は難しいのかもしれないが(アメ車が日本に不向きなように)、選択肢としてもっとバランスが良くなるのが望ましいだろう。
他にも移住マーケティングが長年男性稼ぎ主モデルばかりだったとか、移動という分野でもさまざまなギャップが存在していることが分かった。
あとテーマとは直接関係ないけど、個人的には「移動とメンタル」というテーマについても読みたいなと思う。
本文書体:秀英明朝
装幀:中島英樹/中島デザイン
