一年とぼける "世界99 上" 2025年12月9日

世界99 上
世界99 上
村田沙耶香
作品の面白さとは別に、個人的には「失敗作」と感じた。 明らかに「ポストトゥルースによる分断」をテーマとした作品にとって、村田沙耶香という作家性が持つ都市型という特性、つまり都市外を切断された異界としてしか認識できない事との相性があまりに悪かったと言えるのかもしれない。作品内からはインターセクショナルの気配やそれへの意欲は所々で感じられはするが、それらは達成されず、むしろ結末としては分断が完全に達成される。結末から逆算するに、物語後半で突如として(軽く)言及された「見えない人」という存在そのものが、作家の作品に対する敗北宣言に思えてしかたなかった。 それでもなお、村田沙耶香という類稀な力量を持つ作家が書いた作品として、確かに魅力に映る。しかし、その力量・才能を正しく評価すれば、この程度の作品で落ち着くはずはなかったと思う。これを成功としてしまう事は、それはむしろ作者に対する読者の裏切りではないか。村田沙耶香ならば、このテーマでもって素晴らしく凄絶な作品を描けたはずだと1読者として信じている。
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