
トム
@yukiyuki7
2025年5月7日
ある閉ざされた雪の山荘で
東野圭吾
読み終わった
ミステリー
どんでん返し
【ネタバレ大アリ】
東郷陣平(以降東郷先生)という奇天烈な脚本家がいた。
東郷先生が主催するオーディションに応募し、見事合格を勝ち取った7人の若い舞台役者たち。
7人のうち6人はオーディション以前から見知った仲で、残り1人はオーディション合格後に6人に合流したある意味新参者の久我和幸。
東郷先生の計らいで、彼らは山奥の山荘を4日間貸し切り、過ごすこととなった。
東郷先生曰く、次回作の脚本や演出に反映させるため、演技の練習を実践で積ませようというもの。
山荘での4日間は、東郷先生の設定した状況にあわせて様々な事が起きる。
その出来事に役者として臨機応変に対応してほしいとのことだった。
設定は、山荘の外は記録的な大雪、電話線は切られており、スマホも圏外、オーナーも外出してから帰ってこない、山荘は自然が作り出したクローズドサークルになってしまった。そこで、次々と殺人が行われるというものだ。
しかし、これはあくまでも設定なので、実際は日差しも暖かく、キャンプにはもってこいの晴天だし、山荘の目の前にはバス停があるので外出は可能だし、電話も問題なく通じる。
だが、あくまでもクローズドサークルという設定だと認識した上で、演じていくことが今回7人に与えられたミッションだった。
◆登場人物
・笠原温子
ピアノめっちゃ上手。演技力にも定評がある。笠原をよく思っていない実力のない人が、東郷先生に身体を売って今の位置を獲得したんじゃないかと噂しているが本人は気にしていない。高卒。1人目の犠牲者。
・元村由理恵
綺麗らしい。役者になったのは幼少期父に連れられて芝居やミュージカルを見たことがきっかけ。金持ちのお嬢さん。久我と田所が狙っている。ロンドンやブロードウェイに演技の勉強で行きたいと思っている。このことが雨宮とデキているのでは?という噂を生んだ。2人目の犠牲者。
・中西貴子
噂好きで口が軽い。考えることが苦手。胸がでかい。大学中退。
・久我和幸
演技に自信があり他人を見下し評価する。表には全く出さず、計算高い。
・雨宮京介
足が長い。劇団から一人ロンドンの演技学校に1年間留学させる話で、その一人に選ばれた。どこのグループにも1人はいるようなリーダータイプ。
・本田雄一
荒削りをした顔立ち。ガタイがいい。芝居の実力はある。2日目の夜に久我の提案により、お互いを監視する名目で相部屋となる。このことは中西のみが知っている。
・田所義雄
あからさまに元村を狙っていて、他の人に取られるのではないかという焦りが露骨に出てて余裕がない。リーダーシップを発揮しようとするが、鬱陶しく陰口を叩かれて、人気がない。久我から夜這いすんじゃね?と警戒されてる。
・麻倉雅美
最近スキーで大怪我を負い半身不随になった元劇団員。演技力もあり笠原のライバルだったが、容姿では劣っていた。スキーでの事故はオーディションに負けたことによる自殺未遂という説もある。久我以外の6人とは見知った仲。
初日の夜に笠原という女性がケーブルによって殺された。が、やはりこれも設定。笠原はその後姿を消したが、おそらく近くにペンションでも借りて最終日まで待機してるのだろうとみんなは納得する。
外は大雪で外部からの侵入者はいないという設定だから、犯人はこの残った6人の中にいることになる。
その後、設定ということを前提に「こういう時はどう動くのが自然なのか」「皆に笠原を殺す動機はないのか」ということを探り探りで話し合っていく。
実際には死んでいないので緊張感はないながらも、手探りでリアルな演技を模索する6人。
二人目が(設定上)殺されてから様子がおかしくなる。
設定では鈍器で殴打され首を絞められたことになっているが、狂気として使用された鉄製の一輪挿しには本物の血が付着していたからだ。
また、殺害された部屋を確認すると女性用の生理用品が見える形で放置されていた。
デリケートな部分のためいくら殺され役だとしても、隠したいはずなのだ。
演技ではないかもしれないという違和感。
残った5人は東郷先生がより臨場感を演出するために用意したモノだと無理やり納得した。
しかし、改めて二人目が殺された現場を調べると「この紙を鈍器とする」と書かれた紙がゴミ箱の中から見つかった。
つまり、設定上の鈍器はゴミ箱の中にあったのに、本物の血が付いた鈍器が別で見つかったことになる。
設定の裏で本当に殺人が行われているかもしれない。そういう疑惑と不安が残った5人に沸々と湧き上がってきた。
殺人は結局3人目にまで及んでしまった。
殺害されたのは、笠原、元村、雨宮の3名。
事件を推理し、見事に謎を暴いたのは久我だった。
3人は殺されておらず、近くのペンションに身を隠していたことが後半に判明する。
久我が当初から感じていた違和感の正体を時系列に従って解き明かす。
そのことで判明したのはこの7人が来たペンションに麻倉が潜んでいたことだった。
殺人犯として動いていたのは本多。
先に挙げた3人は殺され役として本多に協力していたことが分かった。
この3人は麻倉に恨まれることをしてしまった。それが原因で麻倉は自殺未遂を起こし、半身不随になってしまったのだ。
3人はその事について後悔しており、麻倉の殺意も理解していた。
麻倉に代わって3人の復讐を予定していた本多だったが、やはり本当に殺人を犯すことはできなかった。
ペンション内に隠れて監視している麻倉の目を欺くため3人に協力を仰ぎ、本当に殺人が行われているかのように役を演じ切ってもらっていた。
つまり、殺人が行われているという設定の裏では、麻倉を欺くために本当に殺人が行われていると偽装し、実際は殺人は行なわれていないという三重構造だったのだ。
麻倉がペンションに潜んでいたことは、本書の冒頭から示唆されていた。
本書は通常の物語を紡ぐ文章と【久我の独白】という文章の二つの構成で成り立っている。
【久我の独白】は久我目線で物語が進行していくが、それ以外の文章は麻倉視点であることが260ページの2行目で判明する。
麻倉の監視が届かない範囲での出来事を久我目線に切り替えることで、物語が進んでいたのだ。
三重構造はそのままどんでん返しの回数とも捉えられる。
正直、設定の裏で本当に殺人が行われてるかもしれないと疑惑が出た時点で、メタ的に本当に殺人が行われていると思っていた。
だからこそ騙された。
とても面白い。