
トム
@yukiyuki7
2025年6月22日
黒猫のいる回想図書館
柊サナカ
読み終わった
【ネタバレ大アリ】
「今日が人生最悪の日ですか?」
もし、そんなふうに黒猫に声をかけられたら、私はなんと答えるんだろうか。
主人公の千紗は「はい」と答えた。
恋人と親友に裏切られ、目の前で泣きながら土下座され、やけ酒の帰りに転倒し、靭帯を切り、倒れてる隙にバッグを盗まれ、スマホも財布も家の鍵も全部なくなる。
これ以上ないくらいどん底の真っ只中。
そんな千紗が導かれたのは、東京ドームよりもでっかい“回想図書館”。
ここで彼女は、自分の人生を一冊の本に書き上げるまで、外には出られない。
出られる出口もない。
図書館の外では時間が止まってるらしい。
図書館内は疲れなく、時間は進んでるが歳を取らない、老化もない。お腹も空かないし、睡魔もない。
そんな不思議な空間で、彼女は自分自身と向き合っていく。
この物語が面白いのは、そこに集まった人たちが「人生最悪の日に連れてこられた」という共通点はあるのに、誰一人として“ただの悲劇キャラ”ではないこと。
見た目や性格にコンプレックスを持つ人、勘違いしたままのナルシスト、自信をなくしたまま大人になった子ども。
そういう一人ひとりが、図書館の中で千紗と関わりながら、ちょっとずつ変化していく。
特に印象的だったのは、「アリス」という憎たらしくも、大人びた、どこか可愛げのある小学生の少女が実は千紗の母だったという“時間のズレ”の演出。
そう、この図書館にいる人たちは元の世界の時代が違うのだ。
そして千紗の時代よりも未来から来たというおばあちゃんが「この世界は戦争で終わる」とほのめかすシーン。
この図書館は「過去」だけでなく「未来」ともつながっていて、自分だけじゃない“時代の痛み”とも向き合わされる。そのスケール感にゾクッとした。
でも最終的に図書館から元の世界に戻ると、図書館での記憶は消えてしまう。
なのに、戻った千紗の中には何かがちゃんと残っていて、自分でも気づかないまま行動が変わっている。
「最悪な日は避けられないかもしれない。でも、自分が変われば未来は変わるかもしれない。」
この物語が見せてくれたのは、大きな奇跡じゃなくて、小さな変化の可能性だった。それでも十分。今の自分にも、ほんの少しだけ希望をくれる物語だった。

