
たなぱんだ
@tanapanda
2025年3月7日

読み終わった
感想
ネタバレなし
2025年のマイベスト小説がもう決まってしまった。
それくらい圧倒的な作品だった。
864ページ、一度も手を止められずに没入した。気づいたら朝。
物理的には読み終わっているのに、しばらく心は物語の中に残り続けていた。
長い長い旅をして、ようやく現実に帰って来られた。こんな読書体験、久しぶりだ。
主人公・空子は、自分自身を持たない。
他者の言動を〈トレース〉し、その場にふさわしい人格を作りながら生きていく。
そんな空子の生きる世界には、ピョコルンという可愛らしいペットがいる。
このピョコルンにある能力が備わったことで、世界は予想もつかない方向に向かっていく──。
SF感が出てくる中盤以降は、この物語がどこに向かっているのか全くわからず、ただただページを捲る手が止まらなかった。いつもの村田作品どおり「当たり前」がぶっ壊される。そして、読んでる間、頭を掴まれて揺さぶられるような感覚を覚える。
本作で、村田作品はひとつの到達点に辿り着いていたように思う。アイデンティティ、社会への適応、女性の生き方——これまでのテーマがすべて集結している。さらには、社会の分断や差別、テクノロジーと人間の関係性など、現代社会が抱える様々な問題までもが折り重なり、圧倒的な密度で迫ってくる。1回読んだだけでは消化しきれない。間違いなく、何度も読み返すと思う。
ただ、村田作品なので、いつもどおり好き嫌いは分かれるとは思う。
性的な表現やグロテスクな表現も多いし、人によっては倫理的に嫌悪感を抱くような描写もある。
正直、気軽に勧められる本ではない。それでも、いろんな人に読んでもらいたい。そんなジレンマに囚われている。
