
文箱
@hubaco
2025年12月9日
奔放な生、うつくしい実験
サイディヤ・ハートマン,
ハーン小路恭子,
榎本空
読み終わった
最後のメイベルの挿話で、ついに若い黒人女性の〈奔放な生〉があでやかに花開くのを垣間見て目頭が熱くなった。黒人女性たちが虐げられながらも抗い続けた世紀転換期〜20世紀初頭から、今がどれくらい隔たっているのか?あるいは未だ続いているのか?いろんなことを考えた。
〈批評的作話〉という語りの手法について。ノンフィクションなどで似た書き方をされた本はままあると思うけど、資料で語れることと語れないことを明確にした上で、空白部分をいっそうラディカルに浮かび上がらせ、零れ落ちてしまうことそのものを問い直すところが著者固有のもの。読んでいて魔法にかかったように感じられるほどの吸引力がある。
個人的にうれしかったこと。訳者あとがきで「奔放」という訳語をあてたwaywardという語に著者がクィアという概念を含みつつさらに豊かで複雑な表現の可能性を託している、と知った。クィアという語が近年どんどん使い古されていくのを悲しく感じていて、それを乗り越える表現上の試みに触れて励まされた。
なお図版と原注の楽しさは無尽蔵。375ページのフローレンス・ミルズの美しさときたら、もうゼンデイヤちゃんじゃないの。