
たなぱんだ
@tanapanda
2025年3月5日

ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス
栗田シメイ
読み終わった
感想
書籍化すると聞いた時点で「これは間違いなく面白い」と期待していたが、その期待を裏切らない一冊だった。
「なんだこの総会は。北朝鮮かよ!!」
マンションの総会で、こんな衝撃的な一言が飛び出す。引っ越し時の荷物はすべて「検閲」され、理事会が認めていない不動産業者は管理人が木槌で威嚇して追い返す。そんな独裁的な管理体制が敷かれたマンションで、住民たちが自治を取り戻すべく戦った1,200日の記録。
最終的に住民たちは理事会のポジションを奪還するのだけど、そこに至るまでの準備が緻密で驚かされる。決戦の場となる総会では、薄氷の上を進むかのような攻防のなかで、彼らが用意周到さが上手く機能していく。結末を知っていても手に汗握る展開で、ノンフィクションとは思えないほどのスリルがある。
ただ、この本が面白いのは、「悪の理事会 vs 正義の住民」といった単純な対立構造ではないこと。住民たちは一枚岩ではなく、急進派もいれば穏健派もいる。住民運動に不信感を抱いてる人もいる。運動の中で何度も対立し、「有志の会」は何度も解散の危機に遭う。
象徴的だったのが、総会当日の様子。1時間の予行演習をした後、会場へ向かう住民たち。だけど、みんな一緒に会場に行くのかと思いきや、直接向かう人もいれば一旦自宅に戻る人もいて、まったくまとまりがない。その光景が、そこまでの戦いの難しさを象徴しているようだった。けれど、そんなバラバラの人たちが、一致団結して目標を成し遂げた。そこに、この物語の本当の感動ポイントがあるのだと思う。
「独裁的な理事会と戦うマンション住民の闘争」という枠を超えて、異なる考えの人々をどう巻き込み、どう説得していくかという普遍的なテーマが描かれている。そういう意味では、以前「積読チャンネル」というYouTubeで紹介された『政治学者、PTA会長になる』と似た雰囲気もあるなと思っていたら、実は担当編集者が同じだったらしい。
ノンフィクション好きや不動産の闇エピソードが好きな人はもちろん、説得術についてヒントを得たい人にもおすすめしたい。

