DN/HP "獄門島 金田一耕助ファイル ..." 2025年12月11日

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2025年12月11日
獄門島 金田一耕助ファイル 3
この小説を読もうと思ったそもそものきっかけでもある、『禍話』の方が個人でやっているツイキャスでの『禍田日明の恐怖の神髄、見せたろか!』という企画の「第零回ポーの流儀で獄門島、紐解いたろか!」というなかでの読み解き、特に「金田一耕助シリーズは『日本を戦争へ導いた古い価値観』の否定である!という考え方」「本作は若者たちの復讐劇でもある!」を意識しながら読んでみた。 すると第一章の冒頭、金田一耕助の紹介から 「金田一耕助が岡山県の農村の、旧本陣一家で起こったあの不思議な殺人事件のなぞを解いたのは、昭和十二年のことであり、当時かれは二十五、六歳の青年だった。その後かれはなにをしていたか。——なにもしなかったのである。日本のほかの青年と同じように、かれもまたこんどの戦争にかりたてられ、人生でいちばん大事な期間を空白で過ごしてきたのである。」 と戦争への怒り、否定と読める文章から始まっていて、おお、と思う。その後も幾つも戦争に、それへの怒り、否定と取れる記述が目につく。なるほど、やはりこれはそういう小説なのか、とわかった!気になったりして。 結果的には馬鹿なと思える事件自体も「馬鹿な戦争」をきっかけにして起こるわけだし、徹底してそういう話ということか。 金田一耕助は最後を看取った親友の遺言に従って三姉妹を救う為に島を訪れる訳だけれど、三姉妹が殺されてしまい、その使命が失敗に終わった後に彼は何故事件を解決しようとするのか。探偵だから、というのは物語的にはそうだけれど、金田一耕助個人の、あるいは作者である横溝正史の思惑、そして「小説」としては「日本を戦争へ導いた古い価値観」の否定のためでありその価値観のために戦争に取られた若者たち、あるいは作中の少女たちのように犠牲になった人々の復讐の為なのだ。なるほど。日明さん間違いないぜ。 そして、謎解きが終わり事件を解決したあと、哀しみや悔しさを含んだ最後の一言、一刺しによって「古い価値観」を無意味だったと完膚なきまでに否定する。あつい。これは哀しみと、それにやはり怒りを持って書かれた、とも思える小説として読めた。なかなか燃えた。 横溝正史の文体というか語り口ってもっと暗く重いものかと思っていたけれど、思いの外キャッチーで読みやすかった。キャラクタや会話にもポップな要素がかなりあるし、なにしろ金田一耕助はチャーミングだ。そのうえで怒りやあつさを秘めているところも最高。最初はアニメ(?)のカバーアートが気に入らなくて、外して映画の写真を貼ってみたりしたけれど、これはこれで結構合っているのかもしれない、と最後はカバーを戻して読了したりもして。 「紐解き」を聞いてから読んだから、物語や謎のネタバレはしていたわけだけれど、それでも、といよりもそれだから「小説」としての凄さや面白さが分かったってめちゃくちゃ楽しめた。今度は自分でなんとか読み解きながら他のシリーズも読んでみようかな。それはやっぱり杉本一文が描いた角川のやつを手に入れてみたい。
獄門島 金田一耕助ファイル 3
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