たなぱんだ "禁忌の子" 2025年3月2日

禁忌の子
禁忌の子
山口未桜
これはもう、歴代の鮎川哲也賞(ミステリーの新人賞)受賞作の中でもトップレベルの作品だと思う。 もちろん、純粋な「謎解き」としての完成度なら、過去の受賞作(『ジェリーフィッシュは凍らない』とか)の方が上かもしれない。だけど、小説としての深み、ストーリーテリングの力強さが群を抜いている。 物語の導入から、最高に惹きつけられる。 ある夜、救急医の主人公のもとに、心肺停止状態の男が搬送される。 驚くべきことに、その男は主人公と瓜二つだった。 顔立ち、体格、体毛の生え方までそっくりなこの男は、一体何者なのか? そんなゾクッとする謎から始まり、一気に物語の深みに引き込まれる。 著者が現役の医師ということもあって、医療現場の描写はめちゃくちゃリアル。現場の緊迫感などが鮮明に描かれていて、ミステリーであることを忘れ、医療ドラマとして没入してしまう場面もあった。 そして、中盤。 とある理由で主人公が岐阜へ向かうあたりから、物語の雰囲気がガラッと変わる。 単なるミステリーではなく、過去と向き合う重みなど、さまざまなテーマが容赦なくのしかかってくる。 ラストで明かされる真実には、納得感があると同時に、胸を締めつけられるような切なさもあった。 「本屋大賞」にノミネートされているけど、ミステリーというジャンルやテーマの重さを考えると受賞は厳しいと思う。 でも、ここまで読んだ候補作6作の中では、間違いなくマイベスト。 ミステリー好きはもちろん、医療倫理や「家族とは何か」などといったテーマに切り込む物語を求めている人にもオススメしたい。 一部の展開は、倫理的に物議を醸しそうな内容。だからこそ、(著者には悪いけど)あまり世間の注目を集めずに、静かに「傑作」として語り継がれていってほしい。そんなふうに思わされる作品だった。
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