たなぱんだ "他人屋のゆうれい" 2025年2月28日

他人屋のゆうれい
表紙のポップな雰囲気から気軽なエンタメ小説かと思い手に取ったら、思いがけず深い純文学的な一冊だった。いい意味で裏切られた作品。 物語の主人公は、急死した伯父の部屋に住むことになる。ところが、その部屋には幽霊がいた。……とはいえ、いわゆるホラー的な存在とは違う。玄関から出入りし、ラーメンを食べる。まるで生きた人間のように振る舞うこの幽霊は、一体何者なのか? 前半は、幽霊の存在がじわりと不気味な雰囲気を醸し出すホラー寄りの展開。だが後半になると、幽霊の正体を探るミステリーへと移行し、さらに物語が進むにつれて、これは「心の成長」を描いた作品なのだと気付かされる。 この小説で幽霊とは、ただの怪異ではなく、「何かに囚われてしまった人」のメタファーだ。主人公自身も、自分の殻に籠り、皮肉や冷笑で周囲を遠ざけて生きてきた存在だった。だが、幽霊の謎を追ううちに、彼の世界は少しずつ変わり始める。 物語の結末も絶妙。作中で出てくる「落としどころ」というキーワードに合った終わり方だ。すべてをきっちり整理するようなものではない。謎の一部は明かされるが、そこには余白が残る。それでも、登場人物たちが前より少し軽やかに生きていけそうな気配があることが、この作品の温かさにつながっているのだと思う。そんなやさしい気持ちのまま、本を閉じられた一冊だった。
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