綾鷹 "光の帝国 常野物語" 2025年12月16日

綾鷹
@ayataka
2025年12月16日
光の帝国 常野物語
特殊な能力を持つ「常野一族」の人々を描いた、十編の物語からなる連作短編集。 「常野」とは、東北地方にあるとされる架空の地域を指し、権力を持たず、目立たず、常に野にある存在であれ、という意味が込められている。 彼らは穏やかで知的な性質を持ち、普通の人々の中で静かに暮らしている。 全て違う物語だが、少しずつ繋がっていて面白い。 「光の帝国」からの「国道を降りて...」の終わり方は暖かい気持ちになった。 「大きな引き出し」が一番好きかなぁ。 親の子への想いが伝わる系には弱い。 ・じわじわと熱いものが込み上げてきた。父が丹念に切抜きをしている姿が目に見えるようだった。一番新しいスクラップブックを手に取る。 彼の最新作、カンヌで賞を取った作品も、父はちゃんと初日に見ていた。 まだ新しい半券の脇に目を走らせる。 言ウコトナシ。 父の評はそれだけだった。それが、父の最大の褒め言葉であったのを彼は唐突に思い出した。子供の頃から、そうだった。 ・ここまで一息に書いてきて、フト外を見ると、白々と夜が明けて障子の向こうが青白く膨らんで来る。その光を見ていると、自分が大きな夢の中に生きているような、誰かの夢の中に居るような静かな気分になって来る。人間の一生と言うのは不思議な物だ。小生にとっては、「常野」以前と「常野」以後で全く別の人生を生きているような気がする。 ・あのさ、僕の導するチェリストが言ってたんだけどね。音楽にすれば全てが美しいって。 憎しみも燃妬も軽度も、どんなに醜いおぞましい感情でも、それを音楽で表現すればそれは芸術だからって。だから音楽はどんな時でも味方なんだって。武器なんだって。心変わりしない。浮気もしない。いなくなったり死んだりしない。そのへんの男よりかよっぽど頼りになる。君は世界一の味方を手放そうっての?君の頭の中にあるのは、それを手放すに値するだけのものなの? ・恩田さんは常に書く。世界は美しくて楽しい幸福なところなのだけれど、同時に、ゾッとするほど醜いものであり、血が凍りそうなほど残酷で恐ろしいところでもあるよね、と。どっちも、であって、どっちか、は無理。白黒きっちりそれぞれの領土にわけて、別々に処理することなんてできるもんじゃない。いいもんがほしければ、わるいもんも連れなくついてきてしまう。感しいことだけ手にいれて、悲しいことは避けて通るなんてワガママはとおらないよ…と。 ・不可知は不可知のままに、不可分は不可分のままに、不条理は不条理のままに、混沌は混沌のままに、そうして、すべてを優しさと愛しさで包んで、お書きになるんである。小説の中だからといって、ものごとを、作者に都合よく並べ替えたりしない。 いいもんはいいもんなんだけど、弱いとこもあるし、ダメなとこももってる。わるもんはわるもんなんだけど、かわいいとこもあるし、無理もないところもある。善悪に境界線はない。それはグラデーションする。
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