
ジクロロ
@jirowcrew
2025年12月16日
井伏鱒二ベスト・エッセイ
井伏鱒二,
野崎歓
ちょっと開いた
「…「お早うございます」というのは、当時どう云っていたかわかっても、「おやすみなさい」というのは専門家にもわからないそうです。あの時代の辞書も、外国の翻本を買ったですが、俗語辞典を引くときのように、俗語を知っていなくっちゃ意味がないですね。全くわからないものですね。」すると正宗さんはもどかしそうに、
「うん、わかるもんか」と云った。
はじめからもう結論が出ていたらしい。
……
私が正宗さんから最後に直接きかされたのは、「うん、わかるもんか」という言葉である。だが、この言葉に暗示など持たせようとしているのではない。
(『正宗さんのこと』)
正宗白鳥から井伏鱒二がきいた、のではなく「きかされた」言葉が、「うん、わかるもんか」。
ただそれだけのこと、だけど何か胸に残る。
「だが、この言葉に暗示など持たせようとしているのではない。」
この言葉を「きかされた」からではないか。
全くわからないものだ。
「うん、わかるもんか」
「きかされた」からこそ、胸に残るということか。
この反復が、文学の味わい。


