
ルイス
@lou2s
2025年12月17日
愛蔵版 国宝 下 花道篇
吉田修一
読み終わった
この小説を読むのは、歌舞伎の初心者どころか、その世界にまったく縁のなかった私にとって一つの挑戦だった。以前はただ「歌舞伎」という言葉しか知らなかったが、この作品のおかげで、舞台の仕組みや俳優、楽家など、そしていくつもの演目について知ることができた。喜久雄と俊介――二人が相棒なのか、ライバルなのか、ともかく芸に人生を懸ける姿は眩しいほどで、常人の私には「正気ではない」とすら思える。しかし、その“狂気”があるからこそ、あの高みに到達できるのだと思う。現実の役者たちが芸を極めていく姿にも、自然と敬意が湧いた。物語はテンポよく進み、私は毎日一、二章ずつ難なく読み進めていった。二人の役者の間にいる徳次という人物は、まさに物語を支える欠かせない歯車のような存在だ。彼がいてこそ、喜久雄と俊介の人間模様――女性との関係や家族との関わり――がより鮮やかに描かれる。徳次は実にチャーミングで、私自身とても愛着を覚えたキャラクターだった。終盤、彼が白河を立てて日本に戻った一方で、すでに「見たい景色を見尽くした」として満ち足りて去った喜久雄にもう会えないという切なさ、そして静かな悲しみが胸に残る。解説も興味深く、歌舞伎という芸と物語そのものをここまで深く結びつけた発想に、心から感心した。

