
勝村巌
@katsumura
2025年12月20日
ブラック・カルチャー
中村隆之
読み終わった
奴隷貿易や奴隷制を起点に環大西洋的な視座から、黒人の文化を音楽、文学、アートなどを横断的に捉えて読み解く内容。大変素晴らしい内容でした。
今年の初めに読んだ後藤護さんの『黒人音楽史』にも深く接続する内容でこれまで自分が見知ってきたさまざまな黒人に関連する点在する物事がシュパシュパとつながる感覚があり面白かった。
高校時代にジミヘンドリックスにハマり、大学時代はJB、スティービーワンダー、マイルスなどを聴き、それに関する評論なども読んできた。公民権運動やヒップホップの歴史などの良書もあるのでそういうものにも触れてきたわけだが、そういう知識に背骨が通ったような感覚を持った。
菊地成孔と大谷能生がどこかのラジオかドミューンかで後藤さんの『黒人音楽史』について語っていたので、それを読み、そこから中村さんのことを知り本屋で見かけて読んだわけだが、本の持つ引力やセレンディピティを感じる体験となった。
内容としては前半の6章は奴隷貿易に端を発するブラックディアスポラについて丁寧に歴史を読み解いていく。
文字を知ることが「奴隷には向かなくなる」ものとして禁止されていたため、黒人にとって口伝や口承が文化そのものとなり、そこから歌や踊りが文化としてかけがえのないものとして立ち上がっていった、というのはなるほど、と思った。
音楽について、黒人霊歌、ブルース、ジャズの成立と発展はニューオリンズからミシシッピ川遡ってシカゴへ至る流れとして大体の経緯は知っていたが、黒人奴隷からの聞き書きによる奴隷体験記をトーキングブックと呼ぶ、ということは初耳だった。それこスティービーワンダーのアルバムに『トーキングブック』というものがある。
黒人文学についてはサミュエルディレイニーを数冊読んだくらいなので、例えば黒人奴隷の年代期としてテレビドラマにもなっているアレックスヘイリーの『ルーツ』などはやがて読まねばならない作品と感じた。
またアフロフューチャリズムやアフロセントリシティなどの言及にも興味深いものが多かった。
黒人ファンクのジャケなどに時たまエジプト的な衣装が施されていることがある。アースウィンドアンドファイヤーの『太陽神』とか、アフリカバンバータの諸作品とかですが、僕はこれは単なる賑やかしというか、エジプトって面白いよね〜みたいなノリでやってたんだと感じてましたが、実は1970年代にセネガルの研究者がエジプトは黒人国家だったとする論文を発表していたのです。
公民権運動などの中でブラックアズナンバーワン的な黒人意識高揚の観点から急進的な活動家などに指示されたこの学説はアフロフューチャリズム(こっちは未来志向)などと共に過去においてもブラックはすごいんだ、という主張の拠り所となっていったらしい。このアフリカ黒人起源説はDNA鑑定的には否定されているようですが、黒人の心を掴んで離さないコンセプトとなっているらしいのです。
だからファンクの人たちって時たまエジプトっぽい衣装を着てるんだ。日本だとスペクトラムとか米米クラブとかってなんかそういう感じだけど、そこら辺の思想のなさが能天気で良いな、と思います。
そのほか黒人文化を模倣する形で取り入れる白人貧困層をホワイトニグロと呼び、非当事者として差別する流れや映画ブラックパンサーについての解釈なども大変面白かった。
また、日本の研究者は黒人奴隷問題については完全な非当事者なため、文章に大変気を遣っているところが感じ取られて気品もあり、素晴らしいなと思う反面、デリケートな問題をしっかりと正面から扱う勇気にも感動した。
広く読まれてほしい一冊です。



