
yo_yohei
@yo_yohei
2025年12月29日
スラムに水は流れない
ヴァルシャ・バジャージ,
村上利佳
読み終わった
@ シンガポール
本作は、第1回「10代が選ぶ海外文学大賞」第一次投票のノミネート作品であり、中学生の夏休み読書感想文の課題図書にもなっているらしい。
中学生向けの小説ということもあり、スラムでの生活描写は過度に生々しいものではなく、物語は最終的に大団円で終わる。そこについてはあえて口を出すべきところではないだろう。
だが、気になった点が二つある。
一つ目は、主人公の父が持つ信条についてだ。父は「悪いものは見ない、悪いことは聞かない、言わないのが良い」という後ろ向きな考えを信じており、それを破ると災いを招くと本気で思っている。実際、主人公の兄はこの信条を破ったことでトラブルに巻き込まれ、一家は大きな危機に陥る。こうした展開を読むと、読者は「やはり余計なことには首を突っ込まない方がいいのだ」という印象を抱かざるを得ないだろう。物語の終盤でもこの信条は再び言及されるが、それを明確に打ち破るような出来事は描かれない。もし私が作者だったら、主人公か兄がもう一度あえて「悪いこと」に関わり、その行動によって事態が好転するエピソードを入れたと思う。
二つ目に気になったのは、父親がまったく家事をしない点と、それに対する問題提起が一切ないことだ。さまざまなトラブルの結果、主人公は勉強を続けながら働きに出ることになるが、水汲みという重要で重労働な家事まで、なぜか主人公一人が担うことになる。そこに父の姿はない。もともと母親が担っていた家事だからという理由で、娘である主人公が当然のように引き継ぐのだが、この家父長制を強く感じさせる場面に対して、批判的な描写や言葉が全くない。家事労働に関して、小説内では父親はまるで透明人間のように扱われている。
もっとも、こうした点を含めて批判的に読むことができる作品であるという意味では、読書感想文の題材としては適しているのかもしれない。







