
時雨崎
@rainstormbook99
2025年12月29日
文庫版 邪魅の雫
京極夏彦
読み終わった
心に残る一節
世界のことを分かった気になり、自分が世界の中心にいる、あたかも創作物の主人公のような使命感を妄想することに対して丁寧に向き合った話なのだと思う。
まあ突き詰めてしまえば渦中の人物それぞれの視野の狭さが中二病乙という話ではあるんだが、その幼稚さを指摘しながらも別に否定しているわけではなくそれが人間だものな、それでも懸命に自分の個人の世界と社会とを擦り合わせて生きているんだからさ、という優しさを感じる。
「私の世界は、何も変わらない。何故変わらない。どうして壊れない。私は、天に誅されるべき、地に糾されるべき、どんな罪より重い、決して取り返しのつかぬ大罪を犯したのではないのか?」
自分の内側に閉じた狭い範囲では世界を揺るがすほどの大事件であることが、外の社会では取るに足らない卑小な存在であるギャップを認識出来ていない。私にとってあなたは私の世界の一要素に過ぎないが、あなたにとっては私こそあなたの世界の一要素に過ぎない。
それが分からない傲慢で愚かで幼稚な思考過程を生々しく書いてる。京極先生自身はそのへん達観してそうな印象があるんですけど、何故そんな真に迫った表現ができるのか…
最後まで読むと、途中で鞄に纏わる話をする関口くんはこれでも懸命に生きてるんだな…って感慨深くなる。
そんな話を幾重にも仕掛けをして、あらゆる視点を以て表現している。なので、事件を起こす個々人の話は収集がつかない。全員が全員、自分こそ事件の中心人物だと思っているので。
その幕引きをするのがいつもながらに京極堂、そして今回は意外なことに榎木津。
榎木津の「世界を社会や個人と強引に接続してしまう」、京極堂の「社会と世間の、世間と個人の関係を一旦反故にして、事件の起きている場そのものを解体してしまう」がラストに向けて重要な意味を帯びる、深みを感じるまとめかただった。
次巻はようやく最新刊の鵺だ!やっと積めるぞ〜〜

