
読書日和
@miou-books
2025年12月30日
真の人間になる(上)
甘耀明,
白水紀子
読み終わった
先月登った三叉山──「天使の涙」と呼ばれる美しい嘉明湖(ブヌン語で“月の鏡/月の影”)を見るのがメインの目的だったのですが、この地にまつわる事件があったことを、最近になって初めて知りました。きっかけは、今年出版された三叉山事件を扱う別の作品(朱和之さん)で、そちらはまだ未読ながら、同事件をモチーフにした本作が既に邦訳されていると知り、図書館で手に取りました。
物語は、1945年9月に起きた「三叉山事件」を背景にしています。日本軍から解放された連合国軍捕虜を乗せた米軍機が、台風に遭遇して台湾東部の三叉山に墜落。台湾の正式接収前という“権力の空白期”のなか、日本人・漢人・アミ族・ブヌン族の捜索隊が山へ向かう──その時代と土地の緊張が静かに描かれます。本作は上下巻のうち、まず上巻で事件へ至るまでの終戦前後の混乱と人々の生活が描かれています。
中心にいるのは、ブヌン族の少年ハルムトとハイヌナン。幼いころから野球が好きで、アミ族のコーチ・サウマのチームに入り、1941年春には霧鹿の部落を離れて花蓮港中学へ──甲子園を目指して練習に打ち込む姿が描かれます。やがて真珠湾攻撃が起こり、世界が一変していく。彼らの故郷や山の描写は匂いまで立ち上がるようで、植物のみずみずしさ、伝承や自然の擬人化表現の清々しさに強く惹きつけられました。少年たちの成長もまた、とても愛おしい。
特攻隊の夫婦のやり取りや、隊員たちが遺した言葉には胸を打たれます。感性豊かなハルムトが、下巻でどのような運命を辿るのか──続きを読むのが楽しみであり、ハイヌナンの運命は上巻冒頭に描かれていたので読み進めたくないような、複雑。