
咲
@lunar_mare
1900年1月1日
美徳のよろめき
三島由紀夫
三島由紀夫
「ちゃんと着物を着て御飯を喰べるのって不味いな。僕は真裸で喰べるのが好きなんだ」
「一人で?」
「君って子供なんだね」と土屋は偉そうに言った。
この一言はかなりあとまで節子に影響を与えた。
そんな情景は今までの彼女には想像も及ばぬ奇観であった。
節子の躾が、無邪気に讃嘆の叫びをあげていた。
何というすばらしいお行儀のわるさ!
二人は体の上に焼けたパンの粉を平気でこぼし、銀の珈琲ポットの熱さにあわてて脇腹を引込めたりしながら、朝食を摂った。
それは決して淫らな食事ではなかった。
むしろ子供らしい無垢な朝食だったと云っていい。
私には、時折、生身のものからすべからく距離を取りたい衝動がやってくる。
そういうときに三島由紀夫が救ってくれる。
こんなにも浮世を離れた男女の描写って、ない。
情欲によろめき不貞をはたらくことを、こんなにも潔癖なほど陽の光にさらして書き起こしてしまえるのは、なぜなのだろう。
「女神」に、女が美しく見えるのは見る側に欲望があるからだ、という描写があった。
その言葉に乗るのであれば、三島由紀夫が女を見るときにこれっぽっちもその目に欲望を乗せていなかったということがわかってしまう。
