"午後の曳航" 1900年1月1日

咲
@lunar_mare
1900年1月1日
午後の曳航
午後の曳航
三島由紀夫
「男」は危険な死や栄光を目掛け海へと去っていく存在であり、「女」は完璧な美しさと肉の重さを持って港に残される存在であらねばならぬ。「汽笛」の音が宿命を告げ、ふたりは引き裂かれる。 それでこそ美しい。 それだから美しい。 それなのに。 「男」は、「海」より「栄光」より「死」より、「結婚」を望んだ。 「女」とともに「陸」に残り、瞬く間に「生活」の匂いにまみれ、世界の悪の形そのものである「父親」になった。 子どもは、それを、許さない。 世界の空洞を満たす「死」。 「死」を行使することで、子どもは、存在に対する実権を獲得する。 「刑法第四十一条、十四歳二満タザル者ノ行為ハ之ヲ罰セズ。これが大体、僕たちの父親どもが、彼らの信じている架空の社会が、僕たちのために決めてくれた法律なんだ。僕たちには何もできないという油断のおかげで、ここにだけ、ちらと青空の一ㇳかけらを、絶対の自由の一ㇳかけらを覗かせたんだ。それはいわば、大人たちの作った童話だけど、ずいぶん危険な童話を作ったもんだな。まあいいさ。今までのところ、なにしろ僕たちは、可愛い、かよわい、罪を知らない児童なんだからね。」
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