なしな
@pearna
2025年12月31日
読み終わった
登場人物のすべてが知った人間のようでおそろしい。普遍的なキャラクターを生める作家のことを本当に尊敬する。自分のなかにあるもの、自分の身近で見てきたもの、他人から見聞きしてきたもの、そういうものをうまく再構成して生み出されたような、とても想像に容易い狭い世界の話。
感想を述べようと思ったが、文庫は一穂ミチさんの解説が載っており、すべて書いてくれていた。こんな、祈りようなタイトルと表紙で。私もそう思った。元気が足りないラジオの該当回をかなり前に聴いていたので、「タイトルのようなほっこりとした感動話ではない」ことはもとより、大筋は知っていたのだけれど、それでも楽しめた。読みやすい文体と文字数なのもありがたかった。
本筋とは関係ないのだけれど、二谷の文学部行けなかった者特有のコンプレックスのくだりがとてもよくて痺れた。この本のなかには「本筋とは関係ないのだけれど」と前置いて褒めたくなるような人間の描写の上手いところがたくさんある。知っている。でも私はこれを肯定したくない。ミチさんも「出会いたくない」と言っていた。私はそれさえも嘘だと思う。嘘だよ、何年生きて社会人してたら芦川さんに出会わずに生きていけるんだよ。でも私は押尾さんにも二谷にもなりたくない。ほかの社員の誰にもなりたくない。でもおおよその人は、この会社のNPC社員のように振る舞うしかない。
この本のいいところは、著者が誰のことも肯定していないことを窺えることだと思う。善悪の価値観が自分とズレていない人が書いているものでなければ、こんな話とても読めない。
押尾さん視点は一人称なのに二谷視点は三人称なのも面白かった。そんな書き方許されるんだ。新鮮だった。こんなの構造的に押尾さんに肩入れしてしまうだろ。