いるかれもん "論理的思考とは何か" 2025年3月9日

論理的思考とは何か
理工系分野出身から図書館に就職し、今まで触れてこなかった人文社会学系の論文を読んだり、他の職員とディスカッションをすることがある中で、自分が当たり前だと思っていた論理的な思考展開の方法が当たり前ではないと感じることがあり、そのモヤモヤを整理するヒントになるかなと思って手に取った一冊。また、最近、読む・書く・考えることについての本に興味があったことや、本書が話題作となっていることも読もうと思った理由だった。 自分が感じていた理工学系 / 人文社会学系の思考様式の違いがわかったというわけはないけれど、自分にとって当たり前で、「絶対的にいいもの」と思っていた論理的思考様式が決して唯一の方法ではないことがわかり、自分がよく使う思考様式を客観的に見直す機会となった。本書では、4カ国の作文教育で教えられる作文の型とその背景にある論理の型(経済領域(アメリカ)、政治領域(フランス)、法技術領域(イラン)、社会領域(日本))を取り上げて、それぞれ異なる中心的価値(目的)、主導的観点、推論の型などがあり、個々の文化的背景を持つことを指摘している。その上で、私たちはそのうちのどれか一つを絶対的な物とせず、議論の目的に合わせて多元的に4つの論理的思考を使いこなすことが重要であると主張している。 私が大学院で行なっていた研究では、問題となる自然現象のメカニズムについて仮説を立てて、数値実験を行い、仮説を検証するという論理展開であった。これは、アブダクションによる推論であり、論理展開としては、最初に主張を述べ、それを支持する材料を集めて正しさを証明するため「経済領域」の論理的思考に基づいていたと振り返る。しかし、この経済の理論は他の領域から見れば議論の余地がないといった、不完全さがあるように見える。本書の中でも主張されていることであるが、議論の目的を見定めて、その目的に合わせた思考様式を使えるようになることが大切なのだと思う。 ページ数は180ページと短く、後書きにも書かれているが、高校生からでも読めるように工夫されており、要点は表になっていたり、重要な記述は枠で囲まれているなど、主張をとても汲み取りやすかった。また、本の構成自体もとても明快で、1章で4つの領域を提示、2章で各領域の各論、3章では各領域から別の領域の論理を評価したときの違和感、終章では4つの理論を多元的に使いこなすことについて、終わりにに全体のまとめがなされている。話題作ということもあり、今なら書店でも手に入れやすいと思うのでご興味があればぜひ。 (補遺) あ、大事な要素を忘れていた。おそらく多元的思考は異なるバックグラウンドを持つ人と議論する時にも効果があるはず。他者の論理的思考に違和感を持つのはおそらく議論の時が一番多いだろうし。ただ、多元的思考ををどうやって相手と共有するかはまだまだ語られていない気もする
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