
橘海月
@amaretto319
2023年6月9日
鳩の撃退法(上)
佐藤正午
読み終わった
小説家の津田は、成り行きで後に行方不明となる幸地家の父秀吉とドーナツショップで短い会話を交わす。その晩の出来事は、秀吉のみならず、津田にとっても運命の分岐点だった…。物語が作家の書く小説となっている入れ子状態が鴻上尚史「恋愛戯曲」を彷彿とさせる。
その津田による描写がこの上なく読み辛い。津田のルーズさや社会性の欠落したやる気のなさが、物事をよりわかりにくくさせている。第三者視点で秀吉とドーナツショップで会った男の描写を延々とした後に「実は僕である」となり、突如1年以上時間が経つ。徐々に津田の「ほえ」すら腹立たしくなってくる。
ただのストーリーテラーかと思えば、一応主人公であるところの津田があまりにもダメンズで、これでもかという駄目っぷりにいっそ清々しくなるほど。常に女の部屋に居候し、たまたま知り合った女を次の居候先に乗り換える。連絡はせず、時間は守らない。相槌は「ほえ」だからこそ、あの展開が小気味良い。
作者が長々とバタフライエフェクトさながらの群像劇を描いていたのも、あの津田にギャフンと言わせるためだと思えば、ひたすら助長的な文章も、煮え切らない津田の態度もムカつく「ほえ」も(しつこい)許せる気がする。それはそれとして、ヤクザ的描写で彼が言う言葉はとても怖かった。静かな怒り。