
句読点
@books_qutoten
2026年1月2日
生きるとは、自分の物語をつくること
小川洋子,
河合隼雄
読み終わった
とても面白かったし、大事な言葉にもたくさん出会うことができた一冊。
小川洋子さんの代表作『博士の愛した数式』を軸に対話が進んでゆく。(この小説を読んだ後でこの対談を読むことを強くお勧めする。)
小川さんも明確に意識していなかったこと、偶然と言ってもいいことが対談の中からどんどん出て来て、物語というのは作者が全知全能の神のように全てを操っているわけではなく、すでにある物語を作者が拾って来て多くの人に伝えるものである、という小川さんの小説に対する姿勢についての話。それと河合隼雄さんが患者に向き合うときの姿勢も重なる。患者さんが治るときにも、いつも「ものすごくうまいこと」が起きるという。まさかというような角度から、そういう偶然的なことが、治癒のきっかけになるという。外から見ていると患者自身がその偶然を手繰り寄せて、治療者であるカウンセラーは何もしていないように見えるが、実際には患者の中にあるそうした偶然を呼び込む力のようなものを、あるいはそうした場所を見つけるための力があると信じて、ひたすらにそれを待ち続ける力量がないとそういうことは起きない。自分の力で、治療者の物語に無理やり載せようとしてもうまくいかないという。
大きな物語の中に、それぞれの個が置かれていて、だから個人的なことも大きな流れとどこかでは接続されているという意識。生きている時よりも、生まれる前と死んだ後の方が長いという意識を持つこと。
河合隼雄さんはこの対談の続きをする前に亡くなってしまって、小川洋子さんは一人で長いあとがきを書いているのだが、それがとてつもなく良かった。『博士の愛した数式』のルートという名前にまつわるエピソードも、河合さんとの対談の後で思い当たったという。その場にいないのに、人の中から物語が出て来てしまう。聞く力、というよりも、その人の前では勝手に物語が出て来てしまう、自分も思いもよらなかった言葉がでて来てしまう、そういう人だったんだなあとよくわかる。その感じ、なんか心当たりあるなと思ったら、ミヒャエル・エンデの『モモ』の主人公、モモもそういう人の話を本当に聞くことのできる稀有な存在として描かれていた。モモもその力によって物語でとても重要な役割を果たすことになる。『モモ』ももう一度読んでみたくなったし、たしか河合隼雄さんもどこかで『モモ』について書いていたはず。河合さんの本も色々読みたいし、小川洋子さんの本も色々読みたい。
以下引用。
"人間は矛盾しているから生きている。全く矛盾性のない、整合性のあるものは、生き物ではなくて機械です。
命というのはそもそも矛盾を孕んでいるものであって、その矛盾を生きている存在として、自分はこういうふうに矛盾してるんだとか、なぜ矛盾してるんだということを、意識して生きていくよりしかたないんじゃないかと、この頃思っています。そして、それをごまかさない。"p.105
"なぜあの時、偶然にも、あんなことが起こったのだろう、と私は時々考えます。考えても答えは出ません。自分が画策したり、小細工を施したりしたわけでもないのに、何かの働きによって物事が上手い具合に収まってゆく。あるいは、無関係だったはずの出来事が知らず知らずのうちに結びつき、想像を超えた発展を見せる。人生は物語みたいだなぁ、とふと思う。その瞬間、私は現実の本質に最も接近している実感を持ちます。現実と物語が反発するのではなく、境界線をなくして一つに溶け合った時こそ、大事な真実がよく見えてくるのです。"p.143 (二人のルート/少し長すぎるあとがき)

