ほんね。 "踊りつかれて" 2026年1月3日

踊りつかれて
踊りつかれて
塩田武士
塩田武士さんの作品は、惨状を徹底的に露悪的に描きながらも、物語の終わりには一抹の爽やかな風を吹かせてくれるところが好きだ。 始めの序章から「加/被害者」の章まではSNSが普及し、匿名性を保ちながら相互監視が行われる現代社会への警鐘が主題なのだろうと思いながら読み進めていた。しかしそれだけではなく、ひとつの事件の始まりから制度上の収束に至るまでを通して描かれる、人々の「思い」の物語といった印象。 炎上をきっかけに自死を選んだ芸能人と、未来を潰された歌手。マスコミがもたらした情報源に、特に過激な発言で火に油を注いだ83人の個人情報を晒すという宣戦布告。犯人側の弁護人の視点を通して徐々に明かされていくのは、芸能人と呼ばれていた彼や彼女にも人生があり、一人の人間であったという単純な事実だ。目に見えるものがすべてではないという当たり前のことを、私たちはあまりにも容易く忘れてしまう。 「誰かが死ななきゃ分かんないの?」 わりと序盤で出てきたこの一言に、どれほどの叫びが込められていたんだろう。匿名性の高いSNSの画面の向こう側にいるのは、モノではなく人間であるということ。この現代社会に必要な1冊だと思う。 p410 世の中には、頭で理解できることは数多くある。しかし、理解は角を落として丸くしない限り、心へは転がっていかない。その心に行き着いた考えや感情の向こうに、人間の真理があるのかもしれない。
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