管太 "傲慢と善良" 2026年1月4日

管太
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2026年1月4日
傲慢と善良
傲慢と善良
辻村深月
『相手の選択』という仕組みを穿つ、婚活ミステリー小説。  恋愛小説を読むことは多いが婚活小説は今まであまり読んでこなかった。恋愛と婚活は別物なのだなと感じさせられた。  善良であるけど傲慢、というのは逃れられない思考の仕方なのだと思う。だから恋というものは難しい。お互いがお互いを100%と言える恋は奇跡のようなものに思えてしまう。でも人間はお互いが100%――少なくとも自分は100%を与えられる恋を求める。だからこの構造から逃れられない。恋という迷宮を彷徨うことになる。無限に広がる迷宮を彷徨って出した答えが人それぞれ違うから、恋の話は面白いのかもしれない。  この話で最も善良なのは花垣学で、一番傲慢なのは美奈子だと思った。花垣がモテないこの世の社会構造を改めて疑問に思った。美奈子は傲慢というか自分が主人公だと認識している自分勝手さがあり、旦那と架の運命を手に入れなければ満足できない人間なのだと感じた。それを自覚できていないという所から、真実の母と同じくらいの人間性レベルであると考える。世界を経験している自分勝手さと、世界を経験していない自分勝手さと言える。  小野里さんがアフォリズムを振り撒いていて、この人の話だけで一本の小説が書けると思った。「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」(137頁)は、誰もがハッとさせられる文章である。  それぞれの登場人物のリアリティが高い。地震のボランティアというのを取り入れることでよりリアリティが高まる。  よい小説だが長いとは思った。もう少しコンパクトに『傲慢と善良』を表現することもできるかもしれないと思う。また、ミステリーとしての終わり方というよりは真実と架の成長譚といての終わり方で締められる。ミステリーとしては第一部で終わるとも言える。成長譚としての終わりと思えばふさわしいのかもしれないが、話の転換点がインスタのコメントという所で物足りなさとご都合主義さを感じた。  文庫本の朝井リョウさんの解説が見事。<私たちの身に起きていることを極限まで解像度を高めて描写>している、というのはこの小説が自分のこととしても刺さる大きな理由である。この小説の値段は朝井リョウさんである、と言えるとも考えられるのは、キレキレな指摘だと思った。
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