
食いしん坊ちぇりぃ
@yummyyummycherry
2026年1月6日
かたちだけの愛
平野啓一郎
読んでる
**追記**
1月10日
平野さんの恋愛小説で愛し合う2人は、人から羨ましがられる色んな要素を兼ね揃えている正しい大人、というイメージがある。「マチネの終わりに」もこの本の2人も。その大人な登場人物が、自身の恋愛感情を前に戸惑う様子が愛おしくて面白い。というか、つい面白がってしまう。
ここ音読しながら読んで笑ってしまった。単純な恋愛感情をおかしな例えも使ってこねくりまわしちゃうインテリ野郎の相良が可愛い。
「相良は、自分の動揺をすっかり持て余して、こんなことには、未熟だった十代の頃の方が却って慣れ親しんでいて、それなりに対処の方法を心得ていたように感じた。
先に愛し始めた人間にとって、恋愛は常に、神秘的な人事問題である。それは、たった一つしかないポストを前にして、ライヴァルに出し抜かれ、理不尽な評価に愕然とする勤め人の僕悩と、恐らくは相通じるものである。
彼は、その恋愛に於ける人事を、客観的な、フェアなものだとはさすがに信じなかった。縦から見ても横から見ても、自分より愚劣としか思えない男を、好きになった相手が選ぶというのは、幾らでもあることだった。本当に愛されるべきはこちらなのだと、万人が同意してくれたとしても、当の相手が、それでもあっちの方がいいと言うのなら、理屈を説こうが、実利を説こうが、毒を説こうが、無駄な話だった。
相良自身、その選ばれない立場だけでなく、選ぶ立場も、選ばれる立場も、それなりに経験して、いつかそのことを、自然に受け止めるようになっていた。見た目一つ採ってみても、好き嫌いはどうしたってある。色々な理由が折り重なるようにして、人は、或る人のことは好きにならず、別の或る人のことは好きになる。そこには必ず、一握りの神秘がある。」(p162,163)