
マヌルネコ
@myws1992
2026年1月10日
コンビニ人間
村田沙耶香
読み終わった
この本を読む時、読む人はたいてい以下のような状態にあると思う。
今って、正しくあるべしとかまともであるべしみたいな、明文化されない社会の掟に閉じ込められているような感じがしていて。
誰かに言われて初めて、自分もそれに気づいていたことに気づくけど。でも気づいてはいても言葉にできないし、まして語ることなんてできないし。
行き止まり=隘路。何らかの呪いのせいで開き方の分からない扉の前で立ち尽くしている。そういう感じが世界全部に漂っているよね。
本作の語り手が、コンビニにおける接客の用語を「祈り」に例える場面がある。やがて語り手はコンビニの声を聞く。そしてにわかに世界が正常な動きを取り戻す。この高揚感がすばらしい。
どう見ても本作の語り手の行く末はやばいし、全体としてとても怖い話だと思うけれども、それでもなぜだろう、めちゃくちゃ痛快な感じがする。語り手の放つ言葉によって、世界や周囲の私たちにとっても日常生活で馴染みであるはずの物事の形が次々入れ替わってゆく。体の中の水分が新しい水に入れ替わるみたいに。もうこれを読む前までの私ではない、そういう感じがする。
本作はこの世界の入り口を開いた作品だと思う。扉を閉ざしていた呪いが、奇妙な祈りによってついにほどかれた。語りが隘路を切り開いた。もはやこれからは、この先に行きたければここを通ればよいし、この前までに戻りたければやはりここを通ればよい。そのつど、いらっしゃいませ~、ありがとうございました~の声が聞こえる。今日も誰かが祈っている。祈りの声のこだまする光の箱のなかで、新しい水が整然と並べられ、入れ替えられている。大げさではなくそう思う。




