
こたつ
@pgrpgar
2026年1月12日
文化はいかに情動をつくるのかーー人と人のあいだの心理学
バチャ・メスキータ,
唐澤真弓,
高橋洋
読み終わった
感想
紹介
日本では「水」と「お湯」を別の言葉で表現するのに対し、英語では「(hot)water」と同じ「water」で示すように、言語によって似た言葉の示す概念に差がある。
そうしたとき、自分の「怖い」とか「怒っている」とかいう身体的な感覚(情動)と言葉の概念の結びつきも、言語とか文化によって違ったりするのかな?と思って調べてみたら行き当たった一冊。
まずめちゃくちゃ面白かった。専門書っぽいが、筆者の実体験や実験協力者のエピソードを多く織り交ぜて説明されているので、心理学に明るくなくても「うんうん、そうだよね」と読み進められる。(翻訳書なので若干そういう読みづらさはあるが)
著者の考えは終始一貫して「情動(emotion)の種類や善し悪し、それを示すことによる目的などはその人の生活してきた文化によって異なる」という論。
読んでいくうちに「喜び」「怒り」「悲しみ」「驚き」みたいないくつかの基本感情は人類共通に持っているとか、情動は自分の内側から外に示すものとか、愛や幸福や自尊心は何よりも善いもの、怒りは悪いものとかという先入観が崩され、いかに自分のフィルターを通してしか相手を理解しようとしてこなかったかを思い知らされた。洋画や洋書における会話を読んでいるとき「そんなわざとらしく褒めたりする?」とか「みんなすぐ怒りすぎでは?」とか常に若干の違和感があった理由もわかった。
同時に、これまでの各人の置かれた文化によって情動のあり方が異なるのであれば、いきなり欧米でうまくいっているからといって同じ交渉術とか教育論とかコーチングをそのまま持ち込んでも上手くいくわけないとも思った。本書の表現を借りれば、今までワルツを踊っていた人たちのところで、いきなりタンゴを踊り始めたり、サンバの音楽を流すようなものだからだ。新しいことを取り入れるのは必要だが、先にある文化にどう馴染ませていくかが大事なのではないか。
人も同じことだ。日本においても外国人の受け入れが進んでおり、「ダイバーシティ」とか「インクルージョン」とかいう言葉が盛んに取り上げられるようになった。外国人に限らず、日本人同士でも、その人の持つさまざまな背景によって感情のあり方やコミュニケーションの取り方は変わってくる。その人の背景によって感情のあり方が違うとなると、もう相互理解は絶望的なように思えるかもしれないけれど(筆者もその恐れについては本書で言及している)、こうした壁の乗り越え方も本書はちゃんと示している。
これからの人間関係や社会のあり方を考える上で、多くの人に読んでほしい一冊。何度も読み直したい。

