ジクロロ "ガリア戦記" 2026年1月16日

ジクロロ
ジクロロ
@jirowcrew
2026年1月16日
ガリア戦記
ガリア戦記
カエサル,
近山金次
「私はおまえたちの豪胆を大いに称賛する。 おまえたちは陣営の防御設備にも、 高く盤える山にも、町の城壁にも 止められなかった。 だが、それだけにいっそう、おまえたちの 手前勝手な思い上がりを非難する。 なせなら、おまえたちは 将軍より自分たちのほうが 勝利や作戦の結果について 知恵が働くと考えているのだから。 私は兵士が節度と自制を 武勇と豪胆に劣らず備えることを望む」。 このように述べた演説の最後にカエサルは 兵士らを励まして 「だから、動揺することはないし、 地勢の不利から起きたことを 敵の武勇の手柄とすることもない」 と語ったのち、以前から考えていたとおりに 撤退策を意図して軍団を陣営から引き出し、 格好の場所で戦列を組んだ。 (p.326) カエサルをはじめとして、 戦士たちの発言はとにかくかっこいい。 その発言の場面も、ここぞというところに 限られているから、なお胸に響いてくる。 戦時においては、 おもねりも、悠長な言い回しも 自己陶酔の雄弁も役に立たない。 とにかく率直で簡潔な物言いだけが、 戦に明け暮れる兵士たちを鼓舞する。 常に自身の生命を賭している そんな状況だからこそ、 「冗長性」に属するレトリックは 全く通用しないのだろう。 そして、どの戦士たちも、 味方の兵士たちの士気を鼓舞する際、 「武勇」という言葉の用い方、扱い方に、 細心の注意を払っている。 その扱い方は、どこか「傷心」のケアに近い、 そんな印象を受ける。 読んでいるこちら側にもビシビシと 伝わってくるほどにまっすぐな敬意と意志が その言葉の端々に宿っているからこそ、 兵士らは、彼らの止むに止まれぬ欲望に、 自らの命を投げ打ってでも 従ってしまうのだろう。 味方の「武勇」に最大の信を寄せ それに賛辞を惜しまないのは、 戦いに明け暮れた時代において それが最大の徳であったからであろう。 とにかくずっと戦い続ける、 ほんとうに、あきれるくらいにずっと。 そしてこの写本は、行軍の途中で途切れる。 だから彼らはまだ、 時空のどこかで戦いを続けている、 そんな気がする読後感。 そんなカエサルも意図しなかったであろう 書物としての旅路の偶然性に支配された その終わり方に、紛失されたその後の行軍に、 この戦記の「生命」というものを感じる。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved