みっつー "いい音がする文章" 2026年1月18日

みっつー
みっつー
@32CH_books
2026年1月18日
いい音がする文章
思春期に入ると、人との会話に緊張するようになった。 ひとりっ子で、同世代との関わりも多くなかった僕は、小学生くらいの頃からクラスメイトと話していても、どこかズレた発言が多かった。 周りが「お兄ちゃん」や「妹」の話をしていても、僕の中に「兄弟」という概念がないため「それって誰の話ですか?」みたいなテンションで話しかけると「いや?お兄ちゃんの話ですけど?」といったリアクションが返ってくるだけで、ポカンとさせていた。 だって知らないんだもん、その「オニイチャン」ってやつ。 そんな、少し、人とのズレがあるなぁという生活が続き、そのズレを治さなくては、人間にならなければ(化物なのか?)という焦りを持ちながら過ごしていて、思春期で、それが爆発した。 気づけば人と話すことが苦手になっていた。 それなりに友達もいたし、部活動も和気藹々として楽しかったから、そこまで悲観することはなかったけれど、それでも自分のしている話題が、相手と同じ話題なのか、ということにずっと囚われながら会話していた。 多分、その時からちゃんと会話することはできていたし、気にするほどでもなかったことなのだけれど、そのズレに対して向き合おうとしていなかった自分に負い目を感じていた。 学校というのは楽しいけれど、シビアな場所だ。 特に男友達といる時は、常にうっすらと「なんか面白いことを言わないと」という空気が漂っていて、なんとも言えない緊張感、面白いことができないとハブられるんじゃないかという不安が襲う。 もちろん、何も考えてない人もいたと思うけど、僕からしたらそんな人はナチュラルボーンの天才だ。 良くも悪くも、僕は昔から声だけはでかく、無駄に明るく、いかにも面白い話をしそうなテンションで喋り始めるので、案の定スベる…というかなんかズレた会話をしていて、やっぱり友達をぽかんとさせた。 だからといって特段、変なやつだ!といじめられたりしたわけでもないので、人間捨てた物じゃない。いい人たちだ。一部いじめっ子っぽい人もいたけど。 ズレに意識した学生生活を続けていたため、だんだんと人に合わせた会話が上手くなって行く。 はじめのうちは、それはとてもいいことのように思えた。 人と楽しく会話ができる。 人に伝わるトークテーマを提供できる。 人が共感できる言葉を紡ぐことができる。 ビバ青春である。 ただ、その会話は、ひどく薄っぺらく、表面的で、どこにも自分がいないようで、なんとなくだけど、頭の中で警報が鳴った。 あ、これは続けていると、本当に自分がなくなってしまうかも、と。 そこから何年も経って、今はあまり気にしないで生活できるようになったし、ある程度自分の気持ちや感情を言葉にすることも出来るようになってきた。得意とも言わないけど、人と話すのって楽しいよね。これもビバ青春だよね。 そして読書にハマり、ゲーム実況のための表現力を上げてこ〜と思っていたところでこの本と出会った。 高橋久美子さんの『いい音がする文章』である。 え、待って? これって文章術の本じゃん。 なんでこいつずっと「学生時代コミュニケーション下手で悩んでたけど今はもう大丈夫っす」みたいな会話してたん?繋がりなくない? と、僕の中のギャルがクレームを入れてきている。 ごもっともだ、もうちょっとだけ聞いてくれる? この本のタイトルを額面通りに受け取れば、そりゃ「文章術の本だ」と感じるだろう。僕もそう思って購入したし、実際内容も文章が上手になりたい人に向けて書かれているものでもあると思う。 筆者である高橋久美子さんは元・チャットモンチーというバンドでドラムを叩いていた人物だ。 『シャングリラ』とか『風吹けば恋』は学生時代の友達ならみんな知っているし、僕は『満月に吠えろ』という曲が好きだ。 その高橋さんがエッセイや小説、作詞家をされているということを知らずに購入し、読んでいくうちに「え!チャットモンチーの人だったの!?」とシナプス細胞がサプライズを受けたのだった。 この本がただの「読書術」の本ではないというのは、音楽との関わりが深かった高橋さんが書くからこそ感じることができる“言葉”と“音”の結びつきについて知ることができる、あるの種のエッセイのようにも思える作品だ。 教えてくれるというよりも、しっかりと、自分の感性と言葉で紡ぎ出される文章は、心地よく、冗談抜きに、僕はこの本の半分以上はずっと音読をしながら読んでいた。 合間、合間のコラムの中で、高橋さんがテーマに沿ったお気に入りの文章を掲載してくれているのだけど、その文章を音読してみると、なんと気持ちがいいことか。 これまでにも好きな文章にはたくさん出会ってきたけれど、リズムを意識したり、耳へのアプローチであったり、そういうことを考えながら読書したという体験はすごく新鮮だった。 これは音楽に関わっていた、もっと言えば、ドラムでリズムを生み出すことを生業としていた高橋さんだから書ける本なのだなと実感したのだった。 読む意識がね、リズムに持ってかれるんですよ。 さぁ、ギャルお待たせ(イケボ)。 なぜ、この本の感想を書くにあたって最初に学生時代のコンプレックスについて書いたかというと、ひとつはやはり学生時代に聞いていたチャットモンチーのことを思い出したからである。 懐かしい音楽は、懐かしい記憶を呼び覚ます。 例え、その記憶が楽しいものであっても、悲しいものであっても、悔しいものであっても。 そしてもうひとつ、僕が今、大人になって、コミュニケーションを取ることを恐れなくなったのは、きっと、自分なりのリズムを身につけることができたからだ。 当然、未だにきれいなリズムを刻むことは出来てはいないと思う。 だけど、きれいじゃなくても良いんだと、この本を読んで気づくことができた。 育ってきた環境が、歩く速度が、読んできた本が、ゲーム実況という活動が、学生時代のコンプレックスが、全部、僕の中で血となり、肉となり、巡ってる。 それが、自分なりのリズムになって、そして今は、そのリズムに乗っかってくれる人も、乗っかりたいと思わせてくれる人も周りにはたくさんいる。 時々、あえて乱すようなリズムを入れてくる人もいるけれど、それは無視したり、ジャズみたいに合わせてみるのもまた一興だなと思う。 『いい音がする文章』で学べたことは「生きるというリズム」だ。 文章を書くときや、ゲーム実況をする時、できるだけ自分のリズムを出すことができているかを意識してみたい。 もうすでに、僕の頭や心の中ではたくさんの言葉が鳴り響いている。 そいつらと一緒に、いつまでも楽しいビートをかき鳴らしていたいと強く思う。
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