
読書猫
@bookcat
2026年1月21日
死ぬまでに行きたい海
岸本佐知子
読み終わった
(本文抜粋)
“この世に生きたすべての人の、言語化も記録もされない、本人すら忘れてしまっているような些細な記憶。そういうものが、その人の退場とともに失われてしまうということが、私には苦しくて仕方がない。どこかの誰かがさっき食べたフライドポテトが美味しかったことも、道端で見た花をきれいだと思ったことも、ぜんぶ宇宙のどこかに保存されていてほしい。”
(「丹波篠山」より)
“私の体重はあっと言う間に元に戻った。眠れるようになった。それでも眠る前に、Mの最後はどんなだったのだろうとよく考えた。自分が死ぬことを知って、それで猫らしく死に場所を見つけに行ったのだろうか。その場所はどこだったのだろう。あたたかな濡れない場所だっただろうか。どこにあるかわからない、でも地表上にたしかにあるその一点のことを思った。
それからしばらくは、雨や雪が降るたびに、ああ、こんな天気なのに帰ってこないということはやっぱりMは死んでしまったんだな、と考えた。それがだんだん三回に一回になり、半年に一回になり、ついには何も感じなくなった。私はやっと本当にMを失った。”
(「地表上のどこか一点」より)

