talia "アキレウスの歌" 2025年3月11日

talia
talia
@talia0v0
2025年3月11日
アキレウスの歌
アキレウスの歌
マデリン・ミラー,
川副智子
Netflix『ハートストッパー』でアイザックとチャーリーが読んでたというだけで気になって読みました。ギリシア神話に疎いので『駿足』の話が出るまでアキレウスがアキレスのことだとわからなかった。そうか、彼は死ぬのか…と思いながら読み進めて、序盤のテティスが身籠る下りで感じた違和感が的中する。 神と人が戦う話は神話として聞けば面白いけれども結局は名声のために戦を止めない男たちが命を落としていく物語。彼らが求める戦利品は地位や名誉や土地や財産だけでなく家畜や女性も──そう、女性も戦利品である。ギリシア軍メネラオスの妻へレネがトロイアのパリスに拐われたことから始まったトロイア戦争は数多の命を十年間も犠牲にし続けた。戦士たちだけでない侵略された人々をも巻き込んで人々は命を落とし、略奪された女性たちは奴隷になる。その中の一人ブリセイスがアキレウスの『戦利品』としてアガメムノンとの対立に巻き込まれて、トロイア戦争は泥沼化する。 訳者あとがきの二番煎じになりますがこの神話をアキレウスとその『親友』パトロクロスの物語として新しく書いた点に現代文学としての読み応えがあると思う。パトロクロスの生い立ちからアキレウスとの出会い、トロイア戦争が始まるまでの二人のやりとりが丁寧に描かれていて、彼らが神話として描かれる部分について「戦いになんて行かなければ良いのに」と読みながら思わずにはいられなかった。ハートストッパーのアイザックが四時間泣いたと言っていたので覚悟して読みましたが怯えていたよりはスッキリする終わり方でした。人はたくさん死にましたが。本当にたくさん人が死んだ。戦さなんて本当、ほんの一握りの人しか求めてない。その一握りだって名誉だとか建前を述べて本当は求めてないかもしれないのに、それに巻き込まれて犠牲になる人々の、尊厳を踏み躙られる人々の数はあまりにも多い。著書、マデリン・ミラー氏はギリシア神話を読み聞かせてもらって育ったとあとがきで書いてるのでおそらくギリシア神話が好きな方だと思うのですが、本書を読んだあとの所感が「ギリシア神話の人々も神々もどうしようもねぇ奴らばっかだな!!」となってしまったことだけが読み方を間違えてしまったのではないかと気がかりです。よくわからんけど全部ゼウスのせいにしとこう。アキレウスが生まれた理由も酷かったし。 小さな文字で書かれた3センチほどの単行本ですが一気に読むことができました。あっさりとした文体にもかかわらず深く余韻の残る物語でした。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved