
ミサキ
@misaki2018jp
2025年3月6日

傲慢と善良
辻村深月
読み終わった
あらすじ
婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。《解説・朝井リョウ》
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「今私、パーセントで聞いたけど、それはそのまま、架が真実ちゃんにつけた点数そのものだよ。架にとって、あの子は七十点の彼女だって、そう言ったのと同じだよ」
「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人」
謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。──高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが摑みたいだけなのに
一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、〝自分がない〟ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います」
「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」
「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」
自分で決められないけど、趣味だけは贅沢って、世の婚活がうまくいかない根本的な原因なのかもね。
こんな過去や好みを持った自分を理解してくれる相手、みたいなものを求めすぎて、逆に相手もそういう物語を持ってるかもしれないってことの方は疎かになる」
「あなたがそうしたい、と強く思わないのだったら、人生はあなたの好きなことだけでいいの。興味が持てないことは恥ではないから」
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あまりにも心が痛い。真実とも架とも状況は違うのに、どちらの心情も手に取るようにわかってしまう。体験したことがないのに身に覚えがあるような。2人に投げかけられる言葉がグサグサと心に刺さる。潜在的にはきっとわかっていた自分の傲慢さを腹の底から容赦なく取り出して言語化して目の前に並べられたような感覚。自分の不甲斐なさに絶望するけど、同じような人が大勢いることが本作のヒットに裏付けられてるのも事実。
現代は昔に比べてあらゆることの選択肢が増えた。結婚相手に限らず、仕事も住む場所も。そしてSNSの普及で友達はもちろんのこと、知らない人の生活まで最も簡単に覗けるようになった。その結果理想がどんどん高くなったり、あっちの方が良かったかもと決められなくなったり。情報が溢れる中で、こうした方がいい、こうしなさいと言われる方が楽だと感じる人がいるのは自然なこと。ある種、柔軟性があるという魅力にも捉えられるし、それが必ずしも悪いとは言わない。だけど、全てを流れに任せていると自分のことがわからなくなってしまう。だからこそ、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人がうまくいく。これは結婚相手でも仕事でも何事にも。自分の欲しいものに関しては常に見失わないようにしていきたい。
真実の行方や2人の将来を追うストーリー性はもちろんのこと、その過程でも1ミリも飽きや中弛みを感じさせない描写に脱帽。今は痛いほどに共感が強い一冊だったけど、もし自分が結婚したら、あるいはあと10歳年を重ねたら「自分も前はこうだったな〜」となるのだろうか。