村崎
@mrskntk
2026年1月31日

降りる人
木野寿彦
読み終わった
よかった!!
期間工として働く一年、春、夏、秋、冬、そして春隣の5章からなる長編。春隣っていいですね。
日々の些末を描き出す「控えめさ」のある内容だけど、パンを泥棒したしてない、残業前に食べるか食べないかという、言ってしまえば「ど、どうでもいいだろ」という事件がまったくどうでもよくないように描かれている。
フィクションは派手であれば楽しいけれど、わたしたちの日常は「どうでもいいだろ」の連続で、しかしそのどうでもよさを最近は無視して生きてしまっているような気もする。そして小説は、そのどうでもよさを掬い取って描くからこそよいものなんだということをあらためて感じた。
「自動掃除機が僕の前で止まった。僕がゴミなのか考えているみたいだった。」(20頁)
「辺りを気にしながら、小さなパンを手にする姿は、泥棒のようだった。」(56頁)
など、人間の形の捉え方というのか、造形の仕方がすごく好きでとても余韻が残る。
秋の章のせつなさ、そして友人の浜野の存在感がとてもいい!!浜野にとったら主人公を救っているつもりはないのかもしれない、具体的な感情や傲慢さがなくても友人としてなにかしてやりたいという気持ちが伝わってき、浜野との会話をすごく穏やかに読めた。
降りる人というのが具体的にどんなものなのかはわからないけど、わたしたちは一生懸命、一生懸命じゃなくても生きており、生きていくために本当いろんなことを繰り返しているのだよなあ、そんな日々のなかで、降りるという選択肢を持つことは、なにか心が軽くなるような、浜野がそばにいるような、ほっと一息つけるような、控えめな救いがある。


