Ryu "私的応答" 2026年1月31日

Ryu
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@dododokado
2026年1月31日
私的応答
私的応答
井戸川射子
蝉を入れた袋は、自転車に乗る前に泣きながら空にした。私が外から押して、蟬が中で当たって抜け殻は多く崩れてた。布の袋なんかにしたから、布は色々絡め取って抱え込むから、細かいのは爪楊枝で取らなあかんやろう。目の前で岩が崩れるという経験は取り憑いた呪いで、どの場面にも当てはまるような、私の踏み出しの一歩を留めるもんになってしまうやろう。考えなんてもんは全部、頭に取り憑いてくるようなもんやけど。自然になんか身を任せられへん、自分は無力やという気持ちで、人はおかしくなったりせんのやろうか。兄ちゃんの深い踏み込みがあかんかったんか、どこででも遠慮してれば、ひどいことは起こらんのやろうか。あの時に戻れたらという地点がどんどん多くなっていって、こんな時計を舐めるみたいに時間にこだわって、時間はもう止まったらええ、父ちゃんと過ごしてた日々が一秒ごとに遠くなってしまうわと思う日と、いきなり何年でも過ぎて、変わって、その時父ちゃんは私の横におるかもしれん、早く結末を見せてくれという日どっちもある。時間に上手く身を浸せるかが鍵なんやろう、時間の使い方が、自分なんやろう。兄ちゃんは口を開けて寝てて、小さい頃指をずっとしゃぶってたからか、開いてしまった歯並びの前歯でいる。(p.16)
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