こた "生活史の方法" 2026年1月31日

生活史の方法
ショートでシンプルでクリアな話をしましょうと、研修では語ることが多い。 仕事では自分でも短くて単純で明晰な話をするように心掛けている。 でも、本当はわかりやすい話は苦手。 現実は冗長で込み入っていて曖昧なもので溢れていると思うし、その機微に光が宿ると感じるから。 この本には、岸政彦さんが逡巡して考え込んで悩み抜いた軌跡の一端が残されている。 控えめに差し出される生活史の聴き方、書き方に、大切なことが詰まっている。 実際にお目に掛かったことはなくとも、やっぱり岸さん好きだなあってしみじみとした。 「私たちの社会はあまりにも分断されてしまっているので、おたがいの理由が見えなくなってしまっているのです。だから私たちは、他者の行為に対して、あまりにも簡単に、非合理的で、不合理で、愚かな、馬鹿げた選択だと捉えてしまうのです。私たちの目は、社会によってふさがれているのです。しかし、どんなひとでもじっくり話を聞いてみれば、そのひとなりの理由というものが存在するのだな、ということを、骨身に染みて実感することがあります。私はこの、一見すると不合理な行為の奥底に隠されている、そのひとなりの合理性を、「他者の合理性」と呼んでいます」(本書288頁)。 ここに人の語りを聴くことの魅力が詰まっている。 弁護士の仕事も、「語り手の言葉にただ驚き、感心し、興味深く耳を傾けて、自分の存在すら忘れて、語り手が語る生活史の物語の深い海の中に一緒に潜っていく。話が脱線しても、現在と過去を行ったり来たりしても、事実関係に間違いや矛盾があったりつじつまの合わない部分があっても、ひたすら話を聞く」(本書194頁)ことから始まるところがある。 最終的には法的な評価を加え、助言に繋げなければならないけれど。 「すくなくとも聞き取りの現場、その最中では、「必死で受動的になる」ほうがよい」(本書198頁)という感覚を共有してる。 「頭のなかに聞きたいことやたくさんの質問、調査の趣旨や理論枠組みがあり、そして同時に、目の前で語られる語りに全力で寄り添い、物語がどの方向に行っても途中でさえぎらず方向転換もせず、ただひたすらどこまでも付いてい」きたいと私も思う(本書202頁)。
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