
咲
@mare_fecunditatis
2026年2月1日
たえまない光の足し算
日比野コレコ
読み終わった
@ ねをはす HOTEL BOOK & CAFE
異食。非食物を食す。
花の生殖器官である、雌蕊と雄蕊を食べる。
「ほんとうは、わたしは、髪、爪、指、それから、腕、ふくらはぎ、じぶんでじぶんを食べてそのまま自分の屍体すらこの世に残さず、消滅してしまうところだった。
そうしても、全然、おかしくなかった。
でも少なくともわたしは自分を食すより世界を食すほうを選んだ。
薗はいま、風に巻かれて、そんなじぶんをこころから誇れる。」
舞台となった時計台を、私は勝手に、太陽の塔に類する姿で想像した。
圧倒的舞台装置。
「時計台といっても、積乱雲のような姿かたちの彫像である。そのもくもくとした躰じゅう、蜂の巣になるまで撃たれたように、眼窩のようなちいさくいびつな穴が、深く貫いている。お腹のなかにまなつの太陽でも隠しているかのように、その躰の間隙からは、ほそい光線が強く漏れ出す。
この時計台はその見た目から「かいぶつ」というたわむれの愛称をもった。この、時計台の躰じゅうにある数千個の多眼のうち、光る眼の組み合わせは、まいにち0時に変化し、同じ光り方は二度としなかった。」
この世に唯一ある《痛くない出口》。
人間になるために、ハグと弘愛は、そこから出ていった。
薗は、違うやり方で、それに続く。
《痛くない出口》には背を向けて、自分の足で、ぐるぐるとぐるぐると、降りていく。
「信じて!わたしは嘘をつかない。
あなたたちが投げた異物はほんとうにわたしを満たしている。
毎日毎日ここで時計台と観客の眼光によって自分が映し出されること。
この場所は薗のゆいいつだった。」
世界に接続することは、かくも困難で、痛い。