はるき ⚠︎ネタバレ有⚠︎ "スター" 2026年2月8日

スター
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朝井リョウ
今の時代を切り取るフレームと、それを共感しやすい言葉に置き換える表現力が秀逸。 あまりにも分かりやすいから、分かった気になってしまう。 素晴らしく、そして、怖い作家だなと思う。 どこにいても誰とでも繋がっているように見えて孤独な現代で、自分の場所を確保するのは容易なようで難しい。 かつてないスピードで社会は変わり続けているから。 確保したと思ったその場所に、もう誰もいなかったりする。 悩む事も許されないような速さの中で生み出され、評価されるものは「本物」なのか。 そもそも「本物」であることに価値があるのか。 生み出したこと自体が価値であり、それが本物かどうかなんて、些末なことなのではないか。 主人公の尚吾と紘、どちらの心象にも頷きながら読み進めていたけど、誰よりも千紗の強さが眩しかった。 登場人物の中では、一番自分と近い職種ということもあって、千紗の憤りや葛藤を、書かれている文章を飛び越えて感じてしまって。 映像作品が消費される物になっている事へ憤りを感じていた尚吾は、真っ先に食事を栄養食に変えて消費した。 それに対し、千紗への後ろめたさなどはない。 誰だってそう。 わたしだって、自分のいる業界を大切にしてほしいと憤りながら、ファストファッションに身を包んでファッション業界を消費している。 単なる優先順位の価値観でしかない。 時代がどうとかではなく、それはずっとそうで、代替品(選択肢)が増えただけなんだと思う。 けれど、優先順位が違う人同士が、お前の優先順位はおかしい!と攻撃してくることがある。 そんな時代に身を置く中で、例え誰かに攻撃されても自分が良いと思える所を増やしてもっておくんだと彼女は言った。 葛藤の末に出したその結論が、あまりにも強く、眩しい。 物語終盤の「越境しますよね、素晴らしいものは」という尚吾の言葉。 確信と祈りが込められているこの一文は、全ての作り手の言葉だと思う。 誰もが作り手であり、消費者である現代。 ともすれば、勝手に消費されてしまうし、無神経に消費してしまう時代。 「本物」があるとするならば、揺るがない自分の価値をもつことなんだと思う。 いつもこの結論に落ち着いてしまうのだけど、自分の中に軸がないと見失ってしまう。 多様な意見が毎日毎時間毎秒飛び込んでくるから、惑わされたり悩んだり憤ったりする。 それは全然悪いことではない。 思考の柔軟性を悪いことだと思いたくない。 でも、本当に自分が優先したい価値観はなんなのかを見失うと、どこにも進めなくなってしまって、分かり易い短絡的な意見に捕まってしまう。そういうものに捕まると、あっという間に絡め取られて動けなくされてしまう。 良いものに触れろ、本物を見ろ。 それが「誰にとって良いもの」で、「誰が決めた本物」なのかは、触れて見た後で、わたしの心が決めるんだろう。 わたしの心はまだまだ未熟だ。 でも、たぶん、大丈夫。 分かった気にならず、作者の言葉と自分の言葉に線を引けるから。 拙くても、劣っていても、こうしてわたしの言葉で語ってるから。 未熟でも、慈しみ育てていくから、大丈夫なんだ。
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