読書猫 "ザ・エッセイ万博" 2026年2月8日

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2026年2月8日
ザ・エッセイ万博
(本文抜粋) “レジ前には長蛇の列が発生していた。しかし、レジの女性は非常にゆっくりと作業をする方だった。順番が来て彼女の前に立ったとき、我慢できなくなった母親がつい口を挟んだ。 「あの、もう少し、テキパキやってくれません?」 その瞬間、レジの女性が手にしたペナントをパキッと折った。 いっさい無言のまま実行された怒りの発露に、私と母親は度肝を抜かれ、何も言い返せぬまま会計を終え、回復不能の折り目がついたペナントを受け取った。その後、別に苦情や交換を申し出るわけでもなく、まあ、あんなこと言ったら、そういう反応もあり得るわな、とどこか納得しつつ大阪に持ち帰り、私の勉強机の前には、折り目のくっきりついたペナントが飾られ続けた──。” “さいわい、私の小説の井戸は当分の間、頼りなくも水脈を保ち続けてくれそうだ。 それでも、いつか枯れる日はくるかもしれない。今回の経験のように、内なる井戸が自分でも気づかないうちに「無」の状態になってしまうことは、どんな対象にだって起こり得る。 ただし、完全に枯れた井戸をひとつ抱えて感じるのは、別にその人の何かが衰えたわけではない、ということだ。 ピアノの井戸が生きていた間に、私が表現した音楽は、すべて自分の内側から湧き上がってきたものだ。その事実と、井戸が今後持続するかどうかという問題は、その人の豊かさを計るにおいて実は何の関係もない。単に人生の一コマを人知れず通過した、それだけの話に過ぎない。” “私は創作論といった類をほとんど持たない人間だが、「おもしろさ」についてだけは一個の持論がある。 それは「第一発想がすべて」というものだ。 パッとしないアイディアは、その後どれだけの英知が集まったところで、よいものに化けることはない。”
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