あんどん書房 "雪の練習生" 2026年2月7日

雪の練習生
雪の練習生
多和田葉子
多和田葉子作品は初めてだったけれど、極力説明せずに納得させていく感じが独特だなぁと思った。 ホッキョクグマを主役にした三世代の物語。最終章に出てくる「クヌート」はドイツに実在したクマらしく、絶妙にリアルとフィクションが交差している。 序章の「祖母の退化論」に出てくる(クヌートにとって祖母である)「私」はサーカスを引退してから、さまざまな会議に引っ張りだこになっている。この時点ですでに何かが不思議なのだが、かといって完全に人間化されている訳ではなく、サーカスで芸を覚える前は普通に檻で飼われていたりして、この世界の人間と動物の微妙な立ち位置がなかなか把握できずにもどかしい。 第二章の「死の接吻」に出てくるトスカは言葉を喋れずより動物的な存在として描かれており(ただし、クマたちが組合を作ってストをするような世界線ではある)、第三章のクヌートまで来ると完全にクマである。たぶんこの時代の人間は動物と喋るなんて全く想像していない。 (もう一つややこしい点としては、クヌートの母である「トスカ」と「祖母」の娘である「トスカ」は魂を引き継いだ別個体…というようなところ) 一体どういうことなの…? と思ってしまうが、この三世代には時代的な隔たりと文化的な隔たりがあって、つまるところこれは「東側」から「西側」への、近代から現代への移行の物語として書かれているのだろうなということは理解できた。 個人的には文化的移行期的な時代のシスターフッドを描いた二章が好きだが、序章はユーモアと「作家」としての葛藤といった著者自身とのリンクもあり面白く、第三章のラストはジョイスを思わせる余韻があって良い。 歴史や東欧文化を知っていればもう少し深く楽しめるのだろうなと思う。 装画:庄野ナホコ 本文書体:秀英明朝
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