呉林抱月 "時をかけるゆとり" 2026年2月10日

時をかけるゆとり
ゆとり、とタイトルにあることから、世代の特性のようなものを考えてみたが、彼は今どきの人、の原型かもしれない。例えば、家族との関係。既に、権威主義的・家父長制的な人間関係というのからは脱している。朝井さんが書く彼と家族の関係は、さながら「チーム朝井」である。服従や反抗に象徴される厳しい上下関係は見えない。また、恋愛への興味も、この文面からは希薄にしか感じられない。(アイドルのような崇拝対象ではなく)作家として生きていくのにあこがれたのが、金原ひとみと綿矢りさという、当時の若手女性作家であったという感覚もみずみずしい。恋愛のほかの愉しみのことがたくさん書いてあり、娯楽の多様化によって、そして多様な価値観が認められることによって、恋愛ブーム・恋愛至上主義が崩れ始める時代に生きてきた人かもしれない。  それからもう一つ。彼は所謂就職氷河期よりも少し下の世代だ。別の本で読んだが、就職氷河期はある一定の時期ではあるが、その影響は、氷河期を脱したと見做された後も長く続いたという。ゆるいエッセイだが、朝井さんのような、氷河期世代に該当しない大卒者の就職も、当時相当厳しいと言われていたこと、朝井さんの通っていた名門私立大学内ですら、そのことを背景に暗い緊張した雰囲気が漂っていたことが、淡々と書きこまれている。エッセイの、時代の証言集としての機能も見出した。  ほかのエッセイも、話題の小説も読んでみたくなった。
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