
socotsu
@shelf_soya
2026年2月10日
ひとごと
福尾匠
心に残る一節
読書メモ
p.10より
「ひとごと」とは、あたうかぎり慎重な曖昧さで定義しておくと、ある他者が私を主体でなくしてしまい、ふたたび我に返ったときに私がその他者に感じる、醒めた感じ、である。そこで立っている杖、から、眼を逸らすことができるのは、杖が放っておいても立っているからであり、同時に、私もまたどこかしらそうであるからだろう。
道徳も真理も腐りきっているとしたら、いったいひとは何を拠り所にして生きていけばよいのか。そんなものはない。しかしそれはたんに人生の厳しさであるだけでなく、楽しさや喜び、あるいは優しさの条件であるだろう。雑多な文章が収められたこの本に通底するのは、「ひとごと」との距離のうちにある、そのようなポジティブな条件の探究である。
私が自分であったり自分でなくなったりすることを可能にしてくれる他者。主体としての私は誰かに対してそのような他者であることはないかもしれないが、私が知らないあいだに私から剥がれる何かは、誰かにとっての自立する杖かもしれない。