
紫嶋
@09sjm
2026年2月11日
家守綺譚
梨木香歩
読み終わった
借りてきた
時は明治時代、冴えない文筆家として細々と暮らす青年を主人公に、彼が暮らす家や庭、近隣の土地を舞台として綴られる静かな物語。お利口で可愛い犬もいる。
各話、ひそやかにクローズアップされる植物があり、その描写に四季の移ろいの鮮やかさや風情をしみじみと感じさせられる。花の色、光の温度、風の香り、水の音…それらにじっと意識を傾ける時間を現代人はほとんど忘れかけているが、この本の中には未だそうした時間がゆっくりと流れている。
また「綺譚」の名の通り、主人公の日々の傍らでは、不可思議な出来事や人外的存在がちらりちらりと見え隠れしているが、それらも不思議と当たり前の、自然なこととして見えてくる。
ひとつには、わざとらしくない絶妙な塩梅でそれらを書き表す筆者の巧さがあるだろう。そしてまた、明治時代という設定や、妖しい物事を現実の延長で捉えて疑わない作中の人々の姿勢が、読者までもを呑み込んで「この時代ならあったかもしれないな」なんて気分にさせられる。
日常と隣り合わせに描かれる幻想が温かく、美しく、大変お気に入りの一冊になった。
なお、作中に「先年、エルトゥールル号遭難事件があった」という記述があるため、この物語は1890年以降の設定であることがわかる。
また、様々に登場する地名や地形などから、主人公が暮らすのは現在の京都市山科区であることも見えてくる。
この小説もまた、一味違った「京都小説」なのである。
琵琶湖や湖から疏水の存在も重要な役割を果たす本作、実在する土地に想いを馳せながら読むのもまた一興だろう。