
木埜真尋
@stilllifeppap
2025年3月12日

調香師日記
ジャン・クロード・エレナ,
大林薫
読んでる
小津夜景の本にタイトルが載っていたので図書館で借りてきて読み始めた。借りた本の写真を撮ってそのまま特に分類せずにあとで参照もしない悪癖があるので、気になるところをreadsに貼り付けてみようと思う。火打石の匂いがする香水、試してみたい。
P7.
「テールドウエルメス」は火打石の匂いがするが、実際にそれを使っているわけではない。だが、それらのフレグランスを嗅いだ人は、そういう匂いがする<錯覚>を起こしている。ジャン・ジオノの言葉を借りるなら、「表現という作業は、読者側の知性においてなされる。読者はそれを楽しみ、また楽しんでいるから、満たされ、歓びを覚えるのだ」。かねてより、調香師は作曲家にたとえられてきた。けれども、私はつねづね自分は香りの文筆家だと思っている。
P14.
ところで、何年も前から日課にしていることがある。一人で静かに実験を重ね、そこで得られた香調を記録しているのである。二種類から五種類の構成要素を使い、匂いの輪郭をスケッチしていく。原料を並べて匂いの錯覚をつくりだすのである。必要に応じてその錯覚を創作にも利用している。
そうやって私は周囲の日常的な匂いをできるだけ簡潔なかたちで表してきた。自然とは複雑でたとえば、ローズの匂いは五〇〇もの芳香分子から成り立っている。チョコレートの香りにいたってはそれ以上で、ニンニクの場合はもっと少ない。私はこの天然の匂いを複製するつもりはない。だから、ゲーム感覚でこのような実験をはじめた。つまり、匂いの意味論を追求しているというわけである。そうやって複雑な構造をもつ自然の匂いというものを香水というかたちで表現する。この作業が<匂いが語る言葉>の基礎ともなっている。もちろんそれが万人に通用するとは限らない。そのことはつねに意識するようにしている。