
さや
@saya_shoten
2026年2月11日
夜間飛行
アントアーヌ・ド・サン・テグジュペリ,
二木麻里
買った
かつて読んだ
noteの感想をこちらにも。
本書のあらすじはこちらから引用する。
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【物語】
20世紀初頭の郵便飛行に携わる者は、「自分達が歴史を作る」という信念と誇りを持っていた。ときに苛酷な決断を下さざるをえない、孤独な世界で彼らは戦い続ける。
『ちいさな王子』の著者、もう一つの傑作。1931年刊。
【内容】
南米大陸で、夜間郵便飛行という新事業に挑む男たちがいた。ある夜、パタゴニア便を激しい嵐が襲う。生死の狭間で懸命に飛び続けるパイロットと、地上で司令に当たる冷徹にして不屈の社長。命を賭して任務を遂行しようとする者の孤高の姿と美しい風景を詩情豊かに描く。
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私の心が動いたところは3つある。
ひとつ目。
序盤で冷徹な不屈の社長リヴィエールはこんな仕事観を述べている。
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リヴィエールにとって人間とは、こね上げられるべき蝋の素材にすぎなかった。 ー中略ー リヴィエールは折にふれてこう口にした。
「この男たちは幸福だ、自分の仕事を愛しているからだ。なぜ愛しているかといえば、わたしが厳格だからだ」おそらくは部下たちを苦しめていただろう、だが強い喜びをも与えていたのだ。「ひとは追い込まなければだめだ」と思っていた。「苦しみと喜びが共に待つ、強い生にむけて追い込んでやらなければだめだ。それ以外、生きるに値する人生はない」
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ここまではひどくはないが、勤め先の会社のあの人やその人の顔がぼんやりと思い浮かんで(会社を出たらできれば1㎜も思い出したくないのに)、読んでいてゲンナリした。ある程度の厳しさは確かに必要で、ナァナァでは仕事は進まない。でも、ここまで非人間的に冷たくなくても良いのではないか。上司の言うことは絶対で、部下は必ず従わなければならないのだろうか。戦時中の日本兵の様な嫌な圧力のかけ方だ。リヴィエールは、己の厳し過ぎる判断ゆえにパイロットが死に直面したらどうするつもりなのだろう。その答えは読み進めていく内に徐々に明かされることとなる。
2つ目。
パイロットの安否を案じる妻と対峙した時、リヴィエールはそれまでとは違う一面を見せる。
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リヴィエールの前に立ちはだかっているのはファビアンの妻ではなかった。生きることのもうひとつの意味だった。リヴィエールはただ耳をかたむけ、相手の気持ちに寄り添うことしかできなかった。その弱々しい声、これほどに悲痛な歌、だがそれは敵なのだった。仕事上の活動も、個人としての幸福も、すこしずつ分かちあえるようなものではない。つまり両者は対立することになる。この女性もひとつの絶対的世界の名において、みずからの責務と権利のもとに語っていた。夕食のテーブルを照らすランプの輝きの名において、愛する者の肉体の名において、希望や優しい愛撫や思い出の生まれる場所、それらすべての名において語っていたのだ。彼女は自己の幸福の権利を要求していた。そしてそれは正当だった。リヴィエールもまた正当ではあったのだ。
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きっとリヴィエールは、パイロットの妻に対しても「任務の遂行こそが至上命題であり、女子供の言うことなど聞くに値にしない」と切り捨てるのだと私は思っていた。しかしリヴィエールは仕事を遂行することと、個人の幸福の追求は、どちらかを卑小に見積もったり、犠牲にするものではなく、どちらも正当なものであると考えている。そこにフランスの個人主義、人権意識の高さの様なものを感じて、嫌な上司面ばかりが鼻につくリヴィエールが不覚にもカッコよく思えた。
3つ目。
無線と夜の空の美しさの描写は本書で何度も登場するが、私は特にこの一文が心に響いた。
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あと5分もすれば、無線局がすべての中継飛行場に知らせを送る。一万五○○○キロにわたって電波という命の震えが行きわたり、あらゆる障害を克服していくだろう。
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なぜならこうした先人達の「あらゆる障害の克服」の末に、郵便の代わりに電波=インターネットを通してメールが使えているのだと、今の自分と繋がったからだ。
全体を通して感じたのは、空を飛ぶパイロットも地上で働く人々も、疲労感はあるが悲壮感はないということ。それはきっと、押し付けられたり、やらされている仕事ではなく、やりたくてやっている仕事だからだろう。少し羨ましく思った。


